第269話 親族見学会と、パーティと、真理

 早いもので、3月になり、今日は親族見学会。

 俺はラチェッタの親代わりとして30歳の姿で授業に出た。

 トラブルはなかった。

 授業中にさされたラチェッタは淀みなく答えられたし、ボケをかます生徒もいなかった。

 エリート校だからな。


 授業が終わり、俺は姿をいつもの15歳に変えて、パーティに出た。


「聞きましたか。ソ・ミカカ語」

「ええ、近年にない大発見です」

「読めて発音できれば呪文の要件を満たすとは考えた事がありませんでしたな」

「当然です。多少の方言はあれど、共通語以外の言葉などお目に掛かれないのですから」


 リッツの論文の話題で持ち切りだ。

 教授の薦めでリッツは学会にも出た。


 ただ、学会に出てる人間で、なんちゃらミミカ語を覚えてみようという人はほとんどいない。

 だって大まかな意味が分かって発音できれば使える。

 言葉の細かい意味なんか覚えても仕方ない。

 そう思う人が多いようだ。


 ただ若い人間はなんちゃらミカカ語を覚えようとする人は多い。

 学園では流行りつつある。

 俺は頭が固いのか覚えなくても良いと思っている。

 呪文効率ではC言語に勝る物はない。


 リッツは5つ単位を貰った。

 ベークの論文は通ってない。


「タイトぅ、リッツが羨ましい」


 パーティで愚痴をこぼすなよ。

 それにお前は、親代わりじやないだろ。

 何で出席してるんだ。


「で、なんか用か?」

「あと少しなんだ。教授からあと1歩だねと言われた」

「それで俺を探してここに来たのか」

「頼むよ」


「新魔法の肝は沢山ある。普通の人が唱える呪文と明確に違うのはどこだ?」

「始まりと終わりの明記」

「それだけじゃないだろ」

「魔法との受け渡し情報の明記」


「まだあるがそれをどう説明する」

「分からない?」

「物には始まりと終わりがあるんだよ。世界とてこの法則から逃れられない。だから始まりと終わりが明記されているのは真理なんだ」


 もちろん俺のこじつけだ。


「考えてみればそうだ。真理だ」

「もう一つの方を考えてみろ」

「ええと、受けるのと渡すのに分かれるから、ええとどういう真理かって言うと、物に何かを与えると結果が出る。これが受け渡しの真理なんだね」


 まあ、こじつけとしてはありだな。

 補完しておくか。


「木を火で炙れば燃える。何か与えれば必ず何かしらの反応がある。殴ったとて同じ事だ。殴るという与えたものに痣が出来るや骨折するという結果がある。受け渡しの真理は全てにある」

「やったこれで論文が通りそうだ。なるほど新魔法は真理に基づいているから効率が良いのか。神の好みじゃなかったんだね。そうか分かったぞ」

「何か閃いたか」

「モセという魔法構造があるよね」

「うんうん」

「これに情報を渡しているけど、これは結果をどう受け取るかに近い。目で見たのか。触って感じたのか。とにかく受け取る物が多くなって、視野が広くなればなるほど、魔法は効率が良くなるんだ。無自覚より自覚の方が安全だ」

「なるほど」

「知覚の精度が高くなれば効率が良い。これは目を瞑って走るより、見て走った方が安全だし、早く走れる。知覚の優位性の真理と名付けよう」

「やれば出来るじゃないか。その調子で真理を突き止めて、新魔法のからくりを解き明かすんだ」

「ありがとう」


「後は新しい新魔法を自分の手で作る事だな」

「頑張ってみる」


「ベーク様、いらっしゃってたのですか」

「ラチェッタ、君は今日も美しい。特に今日は輝いて見える」


 俺はベークの顔が便秘が治ってすっきりという顔に見える。

 論文という硬いのをやっとひり出せた。

 おっと食事中の方には失礼。


「まあベーク様ったら」


 こちらは甘くて砂糖を吐きそうだ。

 二人の目には俺は映ってないんだろうな。


「ベーク、論文で5つ単位を取れなかったら、ラチェッタは諦めろ」

「えっ」

「リッツに出来たんだ。お前にも出来る」

「そんなぁ」

「ベーク様、がんばですわ♡」

「よし、僕頑張っちゃうぞ。今日は調子が良いんだなんだって出来る気がする」


 調子に乗って転がるベークが見えた。

 まあ、新商売と新魔法の二つテーマがあるんだから、単位5つぐらいわけはないさ。

 一筋縄じゃいかないかもだけど。


 ええと、サブルーチンの真理は、一まとめにすると整理し易いという真理だな。

 C言語でサブルーチンから情報を一つしか受け取れないのは、一度に違う思考が出来ない真理だな。

 与えるのは出来る。

 パンチとキックは同時に出せるからな。


 繰り返しの範囲指定は、目印があると間違えないという真理だな。

 範囲指定の終わりと始まりが対になってないとバグるのは、目標が複数あって混乱する真理だな。

 なんだ。

 こじつけでも何とかなるじゃないか。

 ベークよ頑張れ。

 ちょっと考えただけでぽこぽこ出てくるのだから、ちょろいはずだ。

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