第267話 建国祭と、パトロールと、風向きは常に変わる

 王都は建国祭だ。

 出し物を考えないといけない。


「というわけで催し物を決めたいと思う」

「ええと、建国祭は悪者が暴れまわっている記憶しかないよね」


 そうマイラが口火を切った。


「確かに」


 みんな頷く。


 1年目はレクティ暗殺事件。

 2年目は醤油と焼き鳥で平和だった。

 3年目はレジスタと魔導士の抗争で死人のでる展開。

 4年目はベークとの勝負だった。


 2年目と4年目はわりかし平和だったが、他は物騒だったな。


「パトロールという名の買い食い選手権を開いて、露店ベスト10を決めたいと思います」

「まあたまには良いですわね」

「そうね。楽しまないと」

「パトロールには賛成」


「僕はラチェッタさえいれば」

「ベーク様♡」


「パトロールにソレノを呼んでも良い?」

「好きにすれば」


「楽しそうだね」

「賛成しておきます」


「どうやら、露店ベスト10パトロール風味に決まりそうだな。各自武装とお小遣いを忘れないように。あと胃薬もな」


 建国祭の日が来た。

 俺の周りには4人の婚約者がいて、リッツはソレノと、ベークはラチェッタと手を繋いで歩いている。

 ベスとコネクタは微妙に距離を取って歩いていた。

 リッツはトレンを呼ばなかったのだな。

 一度話してみたいと思っていたんだがな。


 俺のお薦めは醤油だれの焼き鳥だ。

 ジャガイモのチーズ焼きも侮れないな。

 ソーセージを串に刺して焼いて、ケチャップみたいな調味料をつけたのもなかなかいける。

 おっ、寮の仲間は、即席麺を出しているじゃないか。


 露店で即席麺は、まあありだろう。

 そこそこ流行っているのがその証拠だ。


「リニア」


 マイラが何か見つけたらしい。

 リニアに声を掛けると、一緒に路地へ入って行った。


「ソレノ、安全な場所に隠れてて」


 とリッツが男らしい態度を見せた。


「はい」


 ソレノが頷く。

 俺はレクティがソレノに手で合図を送ったのを見逃さなかった。

 たぶん援軍要請の命令を出したのだろう。


 ソレノを除いた俺達はマイラ達を追った。

 戦闘音がする。

 倒れている人間を見る限り魔戦士だな。

 肩パットを着けているから分かり易くて良い。


 だが戦っていたのはマイラ、リニア、そしてトレンだった。

 トレンの組織は魔戦士と敵対しているらしい。

 複雑な関係があるんだろうな。

 だが、そうは言ってもトレンが俺達の味方だとは限らない。


「くっ退くぞ」


 魔戦士が撤退していく。


「シラミやカ・ラヒイスシラ・ニカ」

「リッツなんて言っている?」

「余計な事をするなだって」


「だから、その言葉は分からないって」

「私一人でもなんとかなった」

「こういう奴なのよ。放っておきましょ」


 少し呆れた様子のリニア。


「この女、リニアと似てるね」


 マイラが煽る様に言う。


「テクチカ!」

「どこが?!」

「息ピッタリ」


「キチトセ」

「ぐっ」

「ほら」

「マイラそのぐらいにしておけ」


「トレン、大丈夫だった?」


 リッツがトレンに気遣う声を掛ける。


「あのぐらい平気よ」

「トレンに聞きたいが、俺達は敵なのか?」

「どちらでもないわ。完全な中立ね。コナカ・カクイ・テニミシ・チリテチント・ソクチミキイト・シニスイソカニラミ」


 トレンはそう言って去って行った。


「リッツなんて?」

「ええと風向きが。風向きは常に変わるだと思う」


 不確定要素という訳だ。

 魔戦士はそれを嫌がったのかな。

 味方以外の奴は敵の論理なんだろうな。


 レクティの部下が到着して魔戦士の遺体を片付ける。


「トレンの経済状態は裕福なようです。アルバイトはしてませんね。トレーニングの毎日です。ただ食事には気を使っているようです。卵は高いのに白身だけを毎日食べています。黄身は捨てているようです」

「少なくとも貧乏な家庭で育った奴じゃないな。ミカカ語クラブの誰かに黄身を食わせても良いのに」

「おそらく支配階級の出だと思われます。クラブでの人扱いが貴族のそれです」


「それにまだある。2ヶ国語を喋る頭はあるから、記憶力も相当良いな。学園の試験にカンニングしてなければ応用力も利くはずだ」

「ただの脳筋ではないようですわね」

「リニアもそれなりに頭は良い」


「それなりは余計」

「失礼、リニアも相当頭が良い。入学試験に受かったんだからな」

「分かればいいのよ」


 トレンの出自も気になるが、魔戦士の動きも気になる。

 奴ら、またラチェッタを狙ってくるだろう。

 学校行事で遠出する時は一緒に行くとするか。

 ベークじゃ頼りないからな。

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