第167話 演習旅行と、投げ文と、リラ

 演習旅行の季節になった。

 去年はごたごたしてたから、行くのをパスした。

 在学中に一度行っておけばいいものらしい。

 成績を良くしたいのなら何度でも挑戦できるけど。


 マイラと一緒に参加する事にした。

 おも研で他に参加するのはリラだけだった。


 馬車に乗り込み目的地の森まで揺られていく。

 飛ぶ板の方が快適なんだけど、道中の行動も採点に入っている。

 別に良い点が欲しい訳じゃないけど、こういう旅行もたまには良いかなと思っただけだ。


「タイト先輩は、18歳でずっといないの。あの姿が好き。きゃは」

「年齢操作はマイラに合わせているんだ。マイラが12歳なので今は13歳に設定している」

「マイラ先輩、愛されてますね。ちょっと焼けちゃうな。あはっ」


「タイトは誰にも渡さない」

「うん、モンスターみたいな視線」

「お前こそモンスターみたいだぞ」


「二人とも馬車の中で喧嘩しないでくれよ」

「タイト先輩、ヒロインみたい。私の為に争わないでって、きゃは」

「俺は寝るよ」


 馬車の中で寝転がり俺は眠った。

 しばらくして、俺はマイラに揺すられていた。

 眠り込んでいたらしい。


 馬車が最初の野営地に着いたようだ。

 毛布とマットを下ろす。

 くるくる巻いてあるマットを広げて、その上に毛布を広げる。

 冬ではないので、毛布1枚でも寒くはない。


 見張りの順番を聞かれたので、最初の人員にマイラと志願した。


 盗賊退治はしたのでこの街道は安全だ。

 魔法学園の演習旅行に合わせて騎士団も街道の掃除をしている。

 モンスターもいないはずだ。


 退屈だが、来る途中に眠ったので、ぜんぜん眠くない。

 警報の魔道具を念の為に設置しておこう。


「マイラはエミッタとアキシャルが恋仲だって知ってたか」

「うん。みえみえ」


「そうか。俺は機微にうといのか」

「真の強者は弱者の事など知らなくて良い。手下の気持ちに気を使わないのは3流。手下の気持ちに気を使っているのは2流。手下に惚れさせるのは1流。超1流は歯牙にもかけなくても上手くいく」


「さいですか。リラをどう見る?」

「一匹狼の寂しがり屋。強がっているけど仲間を求めている」


 そうだよな。

 おも研で嫌味を言った事がない。

 悪口もだ。


 根は良い奴なのかも知れない。

 ただ、仮面を被っているだけで。


 リラの本名は推測できている。

 ペットがどこにいるかだ。


 石に結ばれた投げぶみが飛んできた。

 レクティの手下からだ。


 リラのペットの事について書いてある。

 最近、学園の外でペットに会った形跡はなしと。

 会ってないのかな。

 いや、愛しいあなたなんて書くぐらいだから、会っているはずだ。

 気になる事が書いてあった。

 外出中、サイリスに呼び掛けているのを何度も目撃したと。


 サイリスって狼仮面の名前だよな。

 自分で自分に呼び掛けるのは、多重人格以外になさそうだ。

 サイリスはリラの別人格か。


 まさかサイリスがリラのペット。

 リラの中にペットの魂が入っているのか。

 そうか、それなら納得できる。


 多重人格の病気でなくて、魔法の何かで強制的にそうなったのだな。

 よく生きていられるな。

 ああ、それがリラの病気か。


 複数の生き物がごっちゃになって存在しているのか。

 可哀想に、辛かったろう。

 想像は出来ないな。

 でも辛かったに違いない。


 浄化魔法の事が分かったぞ。

 浄化は精神を安定させる。

 ごっちゃになった人格を安定させたのか。

 なるほど。

 それは効くはずだ。


 身体能力を考えるに、魂だけでなく、体も一緒になっているな。

 これは難問だ。

 リラの心を解きほぐすのも必要だが、滅茶苦茶になった魂と体を元に戻さないといけない。


 簡単な方法として、リラ以外の要素を魔法で分離する。

 この方法を取ったらリラは助かるだろう。

 だが、リラの中にいるサイリスはたぶん助からない。

 それをリラが望むかな。

 たぶん拒否するに違いない。


 リラを納得させる方法を見つけないとな。


「レクティは何んて言ってるの?」

「リラのペットの情報をくれた。だが解決方法がな。前にリラはキメラだと言ったよな。それを元に戻してやりたいが、そうするとリラは助かる。だが、中にいるペットは助からない」


「ペットはリラに寄生して生きてるのね」

「そうだな」


「じゃあ、寄生している部分で生命を創造すれば良んじゃない。通信の魔道具を作る時に人工生命体を作ったでしょう」

「でもあれは魔道具だ。生命体とは呼べないな」


「手足を付けて、目と耳と声を与えれば、生命体よ」

「力技だな」

「強者は些細な事にはこだわらないものよ」


 それしか手はないか。

 魔法を構築するとしよう。

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