第145話 決勝と、引き分けと、アリの巣ダンジョン

 今日は決勝だ。

 マイラとリラが戦う。


 始めの合図と共にリラの耳元で爆竹魔法が炸裂。

 リラは一瞬固まった。

 その隙を逃すマイラではない。

 リラの後ろの死角に滑り込む。

 そして、石のナイフを作って首を刈りにいった。


 リラが振り返りもせずにナイフの刃を掴む。

 そして、マイラの手首を捻りにいった。


 マイラがナイフから手を離す。

 無手になったマイラにリラが蹴りを放った。

 マイラは転がって避ける。

 転がる方向はリラの死角だ。


 だがリラは位置を把握しているようだ。

 リラがマイラを足で踏みつけようとした。


 マイラが立ち上がる。

 二人は距離を取った。

 マイラとリラが何事か喋った。


 そして、二人が高速で動き、マイラが弾き飛ばされて場外に出た。

 マイラの手にはいつの間にか石のナイフが握られていた。

 リラの腕には傷がある。

 だが、その傷がすーっと消えていく。


 相打ちか。

 審判が迷う。

 どうやら協議するようだ。


 しばらく経って。


「引き分け! 両者優勝となります」


 相打ちの場合は二人とも優勝か。

 日程の関係だろうな。

 再試合が出来ないとみた。

 二人が引き上げて来る。


「きゃは、相打ちになっちゃった。えーん、悔しいよう」

「マイラとリラは決着の前に何を話してたんだ?」


「王族と話をさせてくれるなら、負けてあげるとリラが言ったのよ。もちろん断ったわ」

「八百長を持ち掛けたのか。許せないな」


「あれっ、あれは作戦。だって勝てそうになかったんだもん」

「盤外戦はありなのだ。特に言葉によるものは禁じられてないのだ」


「そうか、心理戦の一種と考えればありだな。八百長で勝てると思った相手の隙を突くか」

「美しくないね。僕なら愛の言葉を囁くけど。もちろん、女性限定さ」


 それは勘弁してほしい攻撃だな。

 美女に愛の言葉を囁かれたら、男なら少し動揺するだろう。

 来年、そんな場面が訪れない事を祈る。


 マイラとリラが表彰される。

 ランシェが労いの言葉を掛けた。


 近くにいた俺は二人の願いを聞き取った。


「アリの巣ダンジョンに行きたいな」


 とリラの言葉。


「小さくてもいいので、タイトに領地を授けて下さい」


 とマイラ。


「よかろう。アリの巣ダンジョンの門番には伝えておく。タイトの領地の件は、何とかしよう。では二人とも励むが良い」


 アリの巣ダンジョンって何だ。

 なぜリラはそこに行きたがる。

 レクティに聞いてみよう。


「二人はおも研のメンバーにお願いする事は決まったのかなのだ?」


 エミッタが尋ねる。


「お姫様ごっこがいいな」


 マイラが可愛いお願いをした。


「えっとねぇ、楽しみは後に取っておくの。美味しいのは最後に食べるんだもん」


「卒業までに決めてくれたらいいのだ。新しい会長にこのお願いは引き継がないのだ。面白い事は全部終わらせるのだ」

「エミッタは今年で卒業するんだ? 寂しくなるな」


 と俺。

 他のメンバーも頷いている。


「僕も何だよ。もっと後で言おうと思ったけど、会長に先を越されてしまったな」


 アキシャルもか。


「湿っぽくなる必要はないのだ。タイト達が入ってくれて楽しめたのだ」


 俺は小声でレクティを呼んだ。


「何ですか?」

「アリの巣ダンジョンってどういう所?」

「ええと、アリのモンスターの巣窟です。噂では最奥に魔王がいるとか」


「何で門番が要るの?」

「何度か、巣別れを起こしてます。今も一番大きな入口は厳重に封鎖して見張っているはずです」


「リラは何でそんな所に?」

「さぁ、分かりません。モンスター素材としてはまあまあですけど。王族にお願いして入る程ではないかと」


「あは、聞こえちゃった。あのね、観光に行くの。アリさんの涙が見たいなって。きゃ、ロマンチック」

「面白いのだ。アリの涙を見たら、ぜひ話しを聞かせてくれないかね」


 アリの涙と言う事は戦闘目的だな。

 魔王に挑んでみたいと言う事なのかも知れない。

 他に目的があるのかは分からないが。

 ど派手な事をしでかしそうな気がする。


 ランシェに警告の伝言を送っておこう。

 たぶん何とかなるはずだ。

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