第254話 計算魔法と、連立方程式と、マイラ的解決法

 今日はリッツとベークが先におも研の部室に来ていた。

 ベークの顔は暗い。

 催眠暗示魔法だけじゃ、どうにもならないらしい。


 配点は応用問題が高いから、そうなると思っていた。


「やばい、単位が取れないとソレノに振られちまう」

「こっちもだ。ラチェッタに振られる」

「同志よ」

「おう、同志。頑張るぞ」


 なんというかこいつら、最後通告を受けないと、頑張れないタイプか。


「タイトー。頼む。助けてくれ。数学は最後の砦なんだ」


 ベークが気色悪い顔して頼んで来た。


「先輩、お願いしやす」


 リッツもか。


「ベーク、新魔法でやってみろ」

「やってみる。まずは『外部にありて』」

「違う、違う。プログラム的魔法では計算は簡単にできるんだ『数の応えを魔法に求め、』で始まる。だって計算の答えが欲しいんだろ」

「そうだな。数を魔法に求めるのか。となると『数の応えを魔法に求め、何も渡されず。疾く魔法開始せよ。』ここまでは分かる。計算の答えを返すにはどうするんだ?」

「続きは『帰還せよ、「数式を入れる」の答えを持って』だな」

「ええとやってみるぞ。【数の応えを魔法に求め、何も渡されず。疾く魔法開始せよ。帰還せよ、1+2+3+4+5+6+7+8の答えを持って。われ魔法終了せし】」


「同志、ベークよどうだ」

「成功だ。これで10倍の数の計算問題に魔法で答えられる」


「同志よ、連立方程式をどうしよう」

「難問だ」


 プログラム的魔法で解けるけどね。

 配列の計算はまだベークには荷が重いだろうな。


「数式の所に問題の文章をぶち込んだら」

「やってみよう……くそっ失敗だ。なぜだ」


「魔法はなイメージで発動される。呪文も大切だが、発動プロセスが分かってないと。つまり連立方程式を解ける方法を理解してないと発動しない」

「そんなっ! 神はいないのか!?」


 ベークが落胆する。


「同志よ、勉強だ。連立方程式をクリアすれば勝利は近い」

「だな」


「特別に新魔法を作ってやろう。【外部にありて、返答は文章の連立方程式、贄は文章。文章の応えを魔法に求め、何も渡されず。疾く魔法開始せよ。帰還せよ、連立方程式に「-3x+4y=-9、-7x+3y=17」を渡して、その答えを持って。われ魔法終了せし】。こんな感じだな。連立方程式の解き方が分かっていれば、魔法が成功するはずだ」

「タイト、恩に着る。僕がライト伯爵になったあかつきには、存分に褒美を与えよう」


 何時まで掛かるやら分からないが、恩は売っておこう。

 マイラ達も部室に現れた。


「リッツも瀬戸際ですわね。成績を理由に別れるみたいですけど」


 レクティと俺は給湯室でひそひそと話した。


「そんな事だと思ったよ。ソレノが『私がいるとあなたが駄目になってしまいます』とか言うんだろうな」

「ええ、そうみたいですわ。監視はもうしなくて良いという判断ですし」


 リッツの彼女のソレノはレクティの部下で、諜報機関の人間だ。

 リッツの監視の為に恋人関係になっていて、監視が解かれると振られる事になっていた。


 成績を理由に振られるのか。

 不憫な奴だ。

 これをバネに強く生きろよ。

 案外、優等生になったりしてな。


「だから『x=』の形に式を作り変えるの。この『-3x+4y=-9』だと『-3x=-9-4y』になって『x=-9÷-3-4y÷-3』になるの」


 セレンが二人に教えている。


「ぐわっ、難しい」

「くそっ、この難関を乗り越えて、ソレノにキスして貰うんだ」


「項目を左から右に移す時は+-が反転するの。で-3xってなっているから、両方を-3で割る。で『x=』になったらもう一つの式に代入して計算。『y』を求める。それから『y』が分かったら、最初の式の『y』に数値を代入。『x』が分かる」

「分からないけど、何となく分かった」

「見えるぞ。連立方程式が見える」


「お茶をどうですか?」


 レクティがお茶を淹れて持って来た。


「馬鹿は大変よね」

「そんな事言って、マイラさんは分かるのか」


 ベーク、マイラに反論するとぎゃふんと言わせられるぞ。


「x=-5、y=-6だよ」

「セレン先生、合ってますか?」


 ベーク、自分で答え合わせぐらいしろよ。


「ええ、正解」

「何で? マイラさんは脳筋のはずなのに」

「簡単よ。答えが分数や小数点という問題をあの講師は作らない。適当に数字を当てはめりゃ良いのよ。大体の範囲は数式の感じで掴めるでしょ。3回も試せば、正解に辿り着くわ」

「ええー、【外部にありて、……われ魔法終了せし】。本当だ。正解がでた。-10から+10までの総当たりで何とかなる。魔法だと一瞬だ」


 マイラも変な求め方を教えたな。

 邪道でだけど、プログラムとしては正しい。

 2重ループで解決する問題だ。

 ただし、答えの範囲を幾つに設定するかの問題と、答えが小数点なのは駄目なのが欠点だな。

 だが、マイラらしい解決の仕方だな。

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