第262話 馬車と、グリフォンと、ベークの活躍

 門番に話を聞く事にした。


「大きな荷物を運びこんだ奴はいなかった?」

「ええと、馬車だと大抵は商人ですね」


 貴族の馬車にオークを隠すのは無理だろう。

 中を少し見れば分かる。

 袖の下を使えば別だが。

 何頭ものオークを入れるのには何往復もしないといけない。

 貴族の馬車の線はないな。


 乗合馬車や農民の荷馬車もないだろう。

 覆いがないのも多いからな。


 となると商人の馬車一択だ。


「商人の馬車はよく通るのか?」

「ええ、好景気ですからね。行き来は盛んです」


 多数の馬車から犯人を見つけ出すのは容易ではない。

 だがオークは2.5メートルほどの巨体だ。

 隠すのは難しい。

 樽とかだと無理だ。

 となると穀物の袋で壁を作るとかだな。


 箱で壁を作るのは難しい。

 ロープで固定しないと荷崩れするからだ。

 やはり袋の類だな。


「穀物の袋を積んだ馬車が列で通らなかったか?」

「通りましたよ。長い列なんで覚えています」


 商会の名前を聞いて、店に行った。

 店はもぬけの殻だった。


 ビンゴだな。

 さてここからどうするか。


「元締め、ある商会の行方を追っている」

「おお、その商会なら知っている。うちで魔道具を仕入れたからな。全員の神秘魔法名も知っているぞ」

「凄いね」

「スパイ騒動の時に誰がスパイか分からなかったからな。身内もそうだが取引先も疑ったさ」


 神秘魔法名のリストを貰った。

 居場所を探知する。

 王都の外の森に反応があった。

 そんな場所にいる理由は一つだ。

 人目を避けている。


 姿隠しを使って偵察する。

 魔戦士の一団が確認できた。


「よし、突入するぞ」


「いや放して!」


 ラチェッタだ。

 グリフォンに載せられようとしている。


 マイラとリニアが魔戦士に阻まれた。

 魔戦士は討ち取られているがどうにも歯がゆい。

 魔法でグリフォンを狙うとラチェッタに当たりそうだ。


 くそっ、逃げられる。


「タイト様ぁ!」

「ラチェッタ!」


 飛び立ったグリフォンに青い何かが稲妻のように突き刺さった。

 見るとそれはサイリスとベークだった。

 グリフォンの背にいる魔戦士はベークの剣に切り伏せられた。

 グリフォンの首にはサイリスが噛みついている。

 グリフォンは羽毛を散らし、地に落ちた。

 載せられていたラチェッタが投げ出される。

 ベークはそれよりも早くサイリスから飛び降りラチェッタを受け止めた。


「ベーク様、来てくれると思っていましたわ」

「怪我はない?」

「大丈夫ですわ」


 マイラとリニアが魔戦士を全て片付け終わったようだ。


「よし、後はレクティの部下に任せよう。撤収だ」


 空飛ぶ板に乗って王都に戻る。


「サイリスに浮気されちゃった」

「ベークはいつサイリスと仲良くなったんだ?」

「肉屋のバイトで骨が沢山あったからサイリスにあげたんだ。そしたら懐いてくれて」


 その後は言わなくても分かる。

 ラチェッタの匂いを嗅がせて、追跡したんだな。


「ベーク、やる時はやる男だな。少し見直した」

「ベーク様は肝心な所は外さないお方です」


「肝心じゃない時はスラムのチンピラにも劣るけどね」

「マイラ、言ってやるなよ。論文で精神メタメタなんだから」


「ぐわぁ、それがあったぁ。今日、教授から批評が出るんだった」


 学園に帰って、部室でくつろいでいると、暗い顔してベークが入ってきた。

 論文は駄目だったんだな。


 聞かなくても結果は分かる。


「ベーク様、がんばですわ。わたくしにはいつか魔導師の中の魔導師と呼ばれるベーク様が見えます。今日はとても恰好良かったです」

「えへへ、恰好良かったかな」


「サイリスがね」


 ぼそっとリニアが突っ込んだ。


「ベーク様、お慕いしていますわ」

「えへっへへっ」


 ベークの顔が蕩けた。


「ベーク、諦めたら終わりだ。新魔法と、新商売の論文は再提出しろよ。根気よくやれば教授も認めてくれるはずだ」

「ああ、頑張る。ラチェッタの応援さえあれば幾らでも頑張れる」

「頑張るベーク様は恰好良いですわ」

「えへへっ」


 こりゃ駄目だ。

 脳みそピンクになってやがる。

 再提出しても見込みがないな。


 新魔法のプログラムの成り立ちをどう説明するか。

 最初のプログラムは機械語だったんだよな。

 アドレスという箱に入れたり出したり、足し算ぐらいの簡単な計算しか出来なかった。

 それでスタックやサブルーチンという考えが生まれて、機械語ではなくプログラム言語が生まれた。

 肝はプログラムの流れと関数の受け渡しだよな。

 ここを上手く説明できれば論文は通るだろう。


 どうしようも無くなったら俺が手助けしてやるか。

 今はまだ見守っておこう。

 ベークは化ける気がするんだよな。

 推定されるスキルの性質からしてそうなるはずだ。

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