第182話 デートと、レストランと、劇場

 今日は、正真正銘のデート。

 といっても男1人に女4人だが。

 前世での中学生の時を思い出す。

 あの時は逆で女1人に男4人だったが。


 ウインドショッピングして歩く。

 娯楽の類がないな。

 ゲームセンターや大型書店や映画館もない。

 ボーリングとかバッティングセンターみたいなのもない。


 あるのは酒場だけだ。

 一昨日行ったカジノはあるが。

 それと娼館がある。

 どれも子供はお断りだ。

 行きたいとも考えてないけど。


「そろそろ、お昼ご飯ね。お腹ぺこぺこ」


 マイラがそう言って腹を押さえた。


「じゃあ、そこのレストランに入ろうか。みんなも良い?」

「わたくしは構いません」

「てごろな感じでいいんじゃない」

「ええ良いわよ」


 席順で揉めたが、俺がくじを作って事なきを得た。

 俺の隣はセレンとレクティだった。

 マイラとリニアが悔しそう。


 料理は高級と定食屋の中間ぐらいだった。

 やはり、リニアは10人前ぐらい食べる。

 店員が目を丸くしてた。


「お客様は当店1万人目のです。記念品をお持ち帰り下さい」


 そう言って差し出されたのは、劇場のチケットだった。

 指定されているのは個室のようだ。


 ちょうど暇だった。

 行ってみようという事になった。

 100人ぐらいは入れる小ぢんまりとした劇場で、個室は一つしかない。

 一段高くなっていて、見晴らしが良い。


 普段は個室に客は入れないんだろうな。

 特別な招待客のみ入れるという感じか。

 6人が入れる個室だったので、5人でも大丈夫だった。


 俺の両隣に誰が座るか揉める。

 俺はマイラとリニアは指定した。

 レストランの時の逆だ。


「人選を誤りましたね。マイラさんと、リニアさんでは演劇に詳しくなさそうです。今からでも間に合います。わたくしを隣に」


 そうレクティが。


「マイラは演劇好きなんだよ。解説するような性格じゃないけどな。解説は2周目に聞くのが俺のスタイルだ。劇が気に入ったらその時は頼むよ」

「そうですか。仕方ありませんね」

「蜘蛛女は隅っこで糸でも張ってな」


 このところマイラはピリピリしている。

 リニアの影響かな。


 劇は3角関係を扱った恋愛物だった。

 役者が大根だ。

 台詞は棒読みで、感情がこもってない。

 観客はじっと聞いているが、面白いのだろうか。

 ヤジの一つも飛びそうな感じなんだが。


 マイラが突然立ち上がり、短刀を抜いて構える。

 何だ。

 観客が一斉にペストマスクを被った。

 舞台の俳優もだ。


 俺は突然の事に戸惑った。

 矢が雨のようにこちらに向かって来る。

 マイラとリニアは矢を全て叩き落とした。


 矢には毒が塗られている。

 俺はバリアの魔道具を起動した。

 壁から、槍が突き出してくる。

 くそう、トラップに嵌ったか。

 バリアで防いだが、ここは危ない。


 リニアが個室のドアを蹴破る。

 俺達は客席に降りた。

 ペストマスクの集団が襲い掛かってくる。

 毒魔法で片っ端から殺す。


 マイラは席の背もたれを足場に飛び回っていた。

 リニアは座席ごと殴ったり蹴ったり。

 木片が四方に飛び散った。


 レクティが口笛を吹くと、覆面をした一団が乗り込んできた。

 覆面はレクティの部下らしい。

 挟み撃ちした格好になり、俺達は一気に有利になった。


「【メテオ】」


 セレンが魔法を行使する。

 天井が崩れ、凄い勢いで落下し、ペストマスクを押しつぶす。

 それ、メテオじゃないだろう。

 崩落魔法だろう。


 ほどなくして、ペストマスクの一団は退治できた。

 突っ込みどころが満載だ。

 罠だったのはまあいい。

 記念品を渡したのは偶然じゃないとすれば、レストランで待ち構えていたって事だよな。

 あのレストランは俺が決めた。

 なんで分かったんだ。


「あの一帯の飲食店は全て店員が死んでます」


 レクティがそう言った。

 何だって。

 そうか100人も動員したんだよな。

 そのぐらい出来る。


 どの店に入るか分からないから、そうしたのか。

 手段を選ばなくなっているな。


「食後の運動になったね」


 マイラがにっこりと笑った。


「ええ、良い腹ごなしになりました」


「天井メテオは使える。室内無敵かも」

「甘い、私ならよけられる」

「私ならぶっ飛ばす」


「後始末は部下に任せて午後の散策に戻りましょう」

「そうね」


 何事もなかったかのように、午後の街の露店を冷やかしながら歩く。

 とんだデートになった。

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