第183話 海と、水着と、狂犬病

 翌日。

 街歩きは懲りたので、空飛ぶ板に乗って海を目指した。


 半日ほど飛び、風に潮の匂いが混ざった。

 海が近い。

 急に視界が開け、青い海が視界に飛び込んできた。

 みんなは歓声を上げている。


 海を見て感動して歓声を上げるほどではないが、海というのは開放感がある。

 山頂も開放感があるが、あれとまた違って海も良い。


 砂浜に天幕を作って、その中で4人が着替える。


 出て来たな。

 なんじゃそりゃという恰好だ。

 まずマイラ、かぼちゃパンツにスリップだ。

 そりゃ水着じゃなくて下着だろ。


 体形がおこちゃまなので、いやらしさは感じない。

 まだ発展途上だ。


 続いてレクティ、膝丈の赤い水着、上は袖が肘まである。

 前世の白黒映像で見た水着だな。

 セクシーさはないでもない。

 ぴったりして体のラインはくっきり表れている。

 胸が意外にあるな。


 続いてリニアが出て来た。

 ホットパンツに、上はさらしだ。

 苦しくないんだろうか。


 最後にセレンだ。

 セレンは着古した普段着だった。

 ところどころ糸がほつれている。

 水着でも何でもない。


 中世レベルじゃこんな物か。

 セクシーな水着を期待してたわけじゃない。

 水遊びが出来れば良いんだ。


 100万魔力でバリアを張って、海の中を区切る。

 これでモンスターは平気なはずだ。


 久しぶりに俺は泳いだ。

 みんなはどうかな。

 レクティは優雅に、古式泳法みたいな感じで、泳いでいる。


 マイラは犬かきだな。

 でも早い。


 リニアは沈んでいた。

 水中を歩いている。


 セレンは泳げなくて、腰まで浸かって寂しそうにしていた。

 俺はセレンの下まで泳いだ。


「泳ぎ方を教えてやるよ」

「ええ、よろしく」


 セレンの手を取ってバタ足を教える。

 そして息継ぎを教えて、そろそろ手を離そうかと思った時、セレンの服が破けた。

 セレンは泳ぐのに夢中で気づいてない。

 セレンを立たせると、形の良いおっぱいがプルンと出た。


「きゃっ」


 セレンは何を思ったのか抱きついてきた。


「そこ、いちゃつかない」


 マイラが突っ込みをいれる。

 マイラは海に潜ると、手に昆布みたいな海藻を持って戻った。


 セレンは海藻を手に取ると胸を隠す。

 良かったよ、ちょっと不味い事になりそうだった。


 さて、セレンの水着をどうしよう。

 魔法で何とかしてやろうか。

 ホログラフィで何とかできるけど。


 ホログラフィで水着を作った。

 セレンは上着の残骸を脱いだ。

 想像したら半裸なんだよな。

 いかん、想像すると不味い事になる。


 セレンはバタ足で泳ぎ始めた。

 俺は砂浜に上がって遠くを眺めて心を落ち着ける。


 遠くではワニの親分みたいなモンスターが、牙の生えたイルカみたいなのを咥えて、海面に躍り出ていた。

 よし、リセット完了。

 泳ぐか。


 散々泳いで、帰路に就く。

 体はどこか気だるくて、熱を持っている。

 切る風が気持ちいい。


 前方に狼モンスターの群れが現れた。

 かったるいな。

 1メートルぐらいの電撃を放つ。

 モンスターは逃げなかった。

 立ちすくんでパニックになった感じだ。

 そして、黒焦げになった。


 近くに来ると目が血走っているのが分かる。

 よだれがぽたぽたと流れるように落ちる。

 唸り声が止まらない。


 これはあれか。

 俺は水球を出した。

 モンスター達がひるむ。


 狂犬病か。

 ウィルス除去は作った事がある。

 もし感染しても平気だろう。

 俺はモンスターを焼き尽くした。


「リニア、同類が死んだ。悲しいよな」


 マイラがリニアを茶化す。


「くっ、貧乳の癖に」

「ちょ、それを言ったら戦争になるよ」


 マイラとリニアがぎゃあぎゃあと口喧嘩を始めた。


「レクティ、ここいら一帯に狂犬病の流行の恐れがある」

「それは恐ろしいですね。関係部署に連絡しておきます」


 王都に帰ると、レクティは部下を呼んでテキパキと指示を出す。

 夕飯前に報告書が出て来た。


 それを読むと、狂犬病は人為的に起こされたものらしいのが分かった。

 発症したモンスターに注射痕があったようだ。

 たぶんペストマスクの仕業だな。

 バイオテロを起こすとは本当に手段を選ばない。

 俺はウィルス除去の魔道具を量産してレクティに預けた。

 これで感染しても平気なはずだ。


 狂犬病の根絶は難しいと思う。

 スタンピードを起こさなければ良いが。

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