第184話 スタンピードと、水球と、医者

 モンスターが狂犬病に掛かって攻めて来た。

 水球を出す魔道具を量産。

 ただで放出するのは大損だが、元締めとオルタネイト伯爵は何も言わなかった。

 とりあえず怯ませる事はできる。

 ウィルス除去の魔道具もあるから、何とかなると思いたい。

 モンスターの討伐は進んで行く、死骸は燃やすように指示した。


「駄目だ。奴ら狂っている」


 対策本部に伝令が駆け込んできた。


「すまぬ。タイト、魔王の実力を見せてくれぬか」


 ランシェが申し訳なさそうに言った。


「火球を撃ちまくるのは良いけど。でかいの撃つと郊外の畑が駄目になるよ」

「ふむ、やつら水を恐れるのだったな。水で頼む」


 俺は出陣。

 モンスターの群れを、600メートルの水球で包み込んだ。

 うーん、窒息までの時間が掛かるな。

 こんなんじゃ夜になっても終わらない。


 600メートルの水球でローラー作戦に出た。

 窒息しなくても溺れれば、しばらく動けない。

 兵士達に後始末を任せよう。


 水球を転がして王都の周りをゆっくり一周する。

 水を怖がるので、寄って来ないから楽でいい。


 ほどなくしてスタンピードは終わった。

 これからが大変だ。

 モンスター素材が商店などに入らなくなる。


 生態系の破壊の爪痕はなかなか元に戻らない。

 大型のモンスターとかが減ったので、ゴブリンとかが増えそうだな。

 それはそれで、問題があるかもしれない。


「お疲れ」

「お疲れ様です」


 マイラとレクティがねぎらってくれた。


「後始末が大変だな。もっとも俺の出番はないけど」

「本当ですね。ウィルス除去でしたっけ、あれを量産する必要があります」

「そうだね。それはやらないと。お金を取ったら暴動が起こるかな」


「王家に請求なされては」

「王家は渋いからな。魔石代だけでも持ってもらおうか。たぶん、そのうちゴブリンが増えるから魔石には困らないはずだ」


「病気が無くなると、医者が失業するね。いい気味よ」

「マイラ、それは違う。医者がいなくなると困る」

「だってあいつら、ぼったくりの癖してスラムには来てくれなかった」

「そうなんだけどね。技術の系統が一つ廃れると大変だ。もう使わない技術なら良いんだけど」


「それは問題ですね。ウィルス除去は医者に売ったら、どうでしょう」

「兵士の方は後で回収するとして、そうだな医者に売るか。幸い狂犬病は悪くなるまでに時間が掛かる。間に合うはずだ。格安で治療を受けられるように政策を練ってもらわないとな」


「スラムにも治療に来てくれるのなら、許す」

「そうだね。スラムの人間も診てくれるようにしよう」


「面白い事を話しておるな」


 ランシェが会話に入ってきた。


「ウィルス除去は医者に売る事にしたよ」

「軍と影に配備したいのである」

「いいよ。噛まれた兵士は軍医に任せよう。それよりモンスターがいなくなって、生態系の狂いが問題だ」

「ふむ。肉食獣が減ると草食獣が増えるというあれか。何か考えねばな」


「冒険者の依頼を調整するしかないね。数を調査して、増えすぎた種類を積極的に討伐する」

「うむ、そうするしかないであるな。ギルドに通達しようぞ」


 そして、何日か経って、狂犬病が王都で流行った。

 モンスターの死骸を横流しした人間がいて、流行ったという訳だ。

 幸い、ウィルス除去の魔道具は間に合った。

 俺も胸を撫でおろして、ほっと一息。

 医者は格安での診療を嫌がったが、件数が多いので魔道具一発で治ると分かると、国の施策に従った。


 ウィルス除去の魔道具を使った偽医者というのか素人医者が増えた。

 なんせウィルス除去なら風邪も治るからな。

 病気の半分は治るだろう。


「医者のギルドがうるさいのである。なんとかならんか」


 ランシェが泣きついてきた。


「分かっている偽医者だろう。兵士がいけないんだ。ウィルス除去の魔道具を返さないから」

「分かっておる。だが、紛失したと言われれば、始末書で済ます他はなかろう。命の危険を省みず、モンスターに向かって行ったのであるからな」

「厳罰にすると士気が保てないのは分かる。こうなったら医者は免許制にしたら。試験もやって、治療料金も国が決める」

「その作業を誰がやるのであるか。わらわはやらんぞ」

「やりたい人にやらせたら。どうせ腐敗するだろうけど、酷くなったら首を斬ればいいと思う」

「それはまた、放任主義であるな」

「組織なんて、腐敗するものなんだよ」

「真理であるな」


 ランシェが帰って行った。

 料金表が決まれば、そのうちぼったくりもなくなるだろう。

 腐敗を見つけたらチクってやるか。

 まあ、ランシェが率いている影が報告を上げるよな。

 ランシェがまた愚痴を言いに来そうだが。

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