第210話 最後の勝負、星を落としてと、夜の草原

 さて、最後の勝負だ。

 ベークは、どんな事を言うのだろうな。

 ちょっと興味が出て来た。


「最後の勝負はセレン嬢の願いを叶えるだ。さあ、セレン嬢、願いを」

「私の願いは星を落としたい」

「えっ」


 ベークの顔が引きつる。

 馬鹿な奴だ。

 セレンが宝石をほしいなんて言う訳がない。

 メテオ魔法の手本を見せろというのだな。

 1億魔力ぐらい使えば可能かもだけど、魔力の手を小惑星帯に伸ばすのはどんだけ時間が掛かる事やら。

 それに小惑星はと惑星は常に動いている。


 追尾するには計算が必要だ。

 出来なくはないかもだけど、まあ無理だな。

 魔法で物体を成層圏まで打ち上げる方が現実的だ。


 誤魔化すなら、ホログラフィだな。

 映画で見た隕石のシーンは覚えている。

 映し出す事は可能だ。


「ベーク、10日後でどうだ」

「ちょっと待て。いくらなんでも星は落とせない。じい、落とせるか」


 執事に尋ねるベーク。


「落とせませんな」


「俺はいくつか手を思いつくぞ」

「じい、何とかしてくれ」

「坊ちゃま無理な事は無理です。大人しく降参しましょう」


「くそう、一矢報いれば、セレンさんはきっと振り向いてくれるはずだ。何とかならないか、金はいくら使っても良い」

「仕方ありませんな。旦那様に報告します」


「そんな事をされたら、破滅だ」

「坊ちゃまの為を思えば遅すぎたぐらいです」


 ベークは去って行った。

 ロケット魔法はやってみたかったな。

 でも失敗してロケットが住宅地にでも落ちると大惨事だ。


 ここは、あの手で行くか。


「みんな、10日後に夜の草原に行くよ」


 俺達はその日を待ち、夜の草原に出かけた。


「灯りを消して。今から星を落として見せましょう」


 灯りが消される。

 空は満天の星。


「落ちないけど」

「マイラ、この魔法は時間が掛かるんだ」


 5人で毛布を被り首だけ出す。

 暖かいお茶をみんなで飲んだ。


「ロマンチックですわ」

「ほら、あそこ」


 俺は空の一角を指差した。

 流れ星が落ちていく。


 何時間も待てば星は落ちる。

 魔法ではないが神秘的な物は感じる。


 マイラが俺にキスしてきた。

 マイラが跳ね除けられリニアが俺にキスをしようとする。

 マイラとリニアの戦闘が始まった。


「もう、ロマンチックな雰囲気が台無しですわ」

「ふふふっ」


 セレンが笑う。

 みんなで星を見るのも悪くない。


 人を使って俺達を監視してたのだろう。

 ベークが現れた。


「くそう、そんなのありかよ」


 俺達の言葉を聞いていたみたいだな。

 暗かったから気づかなかった。


「失敗を恐れて行動しないのは駄目だ。自分に自信がないからと言って他人任せにするのもな。何でもいいから自分で考えて行動する。そうして失敗したら責任を取って反省する。そうして成長するんだよ」

「僕が成長してないと言いたいのか」

「それも自分で判断する事だ」


「坊ちゃま、負けですな。男らしく負けを認めなさい」

「嫌だ。嫌だ。僕のどこが負けているというんだ」


「家柄、財産、実力、人柄、人脈、容姿、ええとまだまだありそう」

「ぐっ。ぐすん」


 マイラ、辞めてやれよ。

 ベークのHPはもうゼロよ

 ベークが泣いている。


「失礼」


 執事に猿ぐつわされ、ロープでぐるぐる巻きにされて、ベークは連れて行かれた。


「もうちょっと星を見たら帰ろう」


 俺の前にマイラが座って、もたれかかる。

 後ろにはリニアが張り付いた。

 レクティが負けじと右に張り付く。

 おずおずと、セレンが左に張り付いた。


 団子になってしまったな。

 暑いんだけど、まあいいか。

 しばらく我慢しよう。


「流れ星が落ち切る前に、願い事を心の中で3回唱えると、叶うらしいよ」

「やってみる」

「ロマンチックですわ」

「ふっ、高速思考はお手の物。勝った」

「そんな、伝説もあるのね」


 真剣に夜空を見つめる。

 流れ星が見えたので、この5人の平和な時間が長く続きますように、俺はそう祈った。

 だが、無常にも、流れ星が消えてしまった。


 マイラ達は喜んでいる。

 願い事は出来たらしい。


「みんなは何を願ったんだい」

「タイトと結婚」

「子孫繁栄ですわ」

「最強」

「一番」


 俺の願いは長すぎたらしい。

 まあ、いいか。

 こんなの遊びだからな。

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