第211話 パーティと、ライト伯と、オルタネイト伯

 親族見学会の始まりだ。

 別に緊張などしない。

 いつも通り授業を受ける。


 この後のパーティがな。

 4人も婚約者をエスコートするのは、見せびらかしているようで気が咎める。

 パーティに何人も奥さんを連れてきて、嫉妬を浴び喧嘩になったという話を聞いた事がある。


 かと言って誰か一人を連れて行くのも問題だ。

 誰も連れて行かないのもな。

 奇策に打って出るか。


 俺はランシェをエスコートの相手として選んだ。

 ランシェは義理の母親だ。

 王族だし、申し分ない。

 マイラもランシェには頭が上がらないようだし。

 他のみんなも納得するだろう。


「頼ってもらって嬉しい事であるな」

「他の人間だと角が立つような気がしたんだ」

「無難な選択よな。しかし、結婚したらそうもいかないのである。先送りよ」

「まあね。その時はその時で考える」

「パーティ用の愛妾を作るのも一つよな」

「これ以上増やすのは勘弁してほしい」


 会場に入りランシェと別れた。

 オルタネイト伯には挨拶しておかないと。

 レクティの父親だからな。

 未来の義理の父に不義理は出来ない。


 オルタネイト伯を探して、歩く。

 俺の前に立ち塞がるように人が現れた。

 見た事のない人だ。


「失礼。どなただったかな」

「これはこれは、タイト王子におかれましてはご機嫌麗しく。ライト伯爵でございます。愚息がお世話になりましたので、ご挨拶と思いまして」


 ああ、ベークの父親ね。


「名ばかり王子だから、かしこまらなくても良いよ」

「現存する魔王様に敬語抜きだなんて、とてもとても」

「好きにするといいよ」


「愚息は謹慎させております。どうして、ああも出来が悪いのか。やはり養子でもとって競わせた方が良かったですかな」

「競争相手は必要だと思うな。まあ、負け犬になって卑屈になるのも問題だけど」

「今からでも遅くありませんな。分家から何人か見繕うとしましょう」


 ベークはこれから前途多難だな。

 自分のやった事だから、責任は取らないと。


「俺はまだ人と会わないとだから、行くよ」

「ベークがこれからも迷惑を掛けると思いますが、なにとぞよろしくお願いします」

「問題ない範囲で相手をするよ」


 そう言ってライト伯と別れた。

 オルタネイト伯を見つけた。


「お久しぶりです」

「そうだね。たまには顔を見せてくれ。他の婚約者の顔も見てみたい」

「興味があるの」

「ああ、有能な人物は何人でも味方にほしい。魔導師との諍いは終わっていないのだからね」


 ドンパチは現在も進行中か。

 表立って戦争はしてないが、水面下で戦争中だもんな。

 対魔導師組織レジスタの大口スポンサーでもあるし。


 魔導師が片付いたら、オルタネイト伯はどうするつもりなんだろう。

 王家打倒とか言い出さないか心配だな。

 ちょっと聞いてみるか。


「終わりは見えている様な気がするんだ。その後の世界図が見えない」

「タイト君は流石だね。もう次の事を考えている。外国の事はどれだけ知っているかな」

「地理はなんとか。ここ何十年も戦争はない」

「そうなんだ。戦争がない理由が魔導師にあるのだよ。彼等は戦力だ」

「蝕む寄生虫だけど、宿主も守っている」

「その通りだ」


 そうなるとやばいね。

 魔導師を片付けて終わりという訳にはいかないのか。


「情勢が動くのか」

「そうだね。だからと言って寄生虫は放置出来ない。やつらは大きくなり過ぎた」


 オルタネイト伯にとりあえずの野心がないようで良かった。

 魔導師がいなくなると外国が攻めてくるのか。

 全く嫌だね。


「外国の対処も考えておくよ」

「聡明な義理の息子で助かるよ」


 オルタネイト伯が、魔導師の変死は君の仕業だろうと耳打ちしてきた。

 気づかれるよな。

 諜報機関も抱えているし切れ者だから。


「さてどうかな」


 惚けておいた。

 秘密を知る人間は少なければ少ないほど良い。


「では近々遊びに行きます」

「待ってるよ」


 マイラ達を見つけた。

 四人で固まっている。


「みんなそろってるね」

「タイト、次からは私達をエスコートして。迷惑を掛けないよう順番を決めたから。春夏秋冬の順番だよ」


「そんなのも決めたっけな」


 マイラが春で、セレンが夏、レクティが秋で、リニアが冬。

 確かそうだったはず。


 本人たちがそれで納得したなら良いか。

 そう言えば、セレンの親に挨拶してない。

 しないといけないな。

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