第212話 ベークと、問題点と、仕事
「ふふふっ、はははっ、ぐひゃひゃひゃ」
「マイラ、可哀想だろ。そんなに笑っちゃあ」
おも研の部室で、なんでマイラが笑っているのかと言えば、丸刈りにされたベークが土下座しているからだ。
「何とでも言え。いえ言って下さい」
「うん、勘当されたんだよな。で、頼る所がないので俺の所に来たと」
「頼む、何とかしてほしい」
「ベークはまず人に頼るのを辞めろ。自分で考えて行動する癖を身に着けた方が良い。さあ考えろ」
ベークは必死になって考えているらしい。
だが、考え付かないようだ。
住む所は寮がある。
食事が提供される寮なら、昼飯をなんとかすれば暮らしていける。
着る物とか、勉強に必要な物とかは買わないとだけど。
まあ、結論としては何がなくとも金だな。
だから正解は働く所を紹介して下さい、何でもやりますだ。
俺に頼むのではなくとも、事務局にいけば清掃の仕事とかある。
「何をしたら良いんだ。分からない」
どうしようもない奴だな。
ボンボンだからな。
「ヒントを出してやろう。問題点を洗い出すんだ。困っている事が色々とあるだろう」
「ええと腹が減った」
「昼飯を食ってないからだな」
「ああ、そうだ」
「じゃあどうする」
「
「俺達は言ってみればライバルだ。そんな事をする必要はないな。敵に塩を贈るなんて逸話もあるが、世間一般はそうじゃない」
「じゃあ、金を貸してくれ。もちろん、一筆、書く」
「だめだ、お前は勘当されて信用がゼロだ。誰も貸してはくれないだろう。さあ考えろ」
「恵んでもらうのは貴族のプライドが許さない。僕は物乞いじゃない。働くしかないんだな」
「正解だ。事務局へ行けば、苦学生用のアルバイトがある。紹介してもらえ」
「助かった。行って来るよ。この恩は忘れない」
ベークが出ていった。
「やれやれ、行ったか。働いた事のない奴に務まるかな」
「務まらないに金貨1枚」
「わたくしもですわ」
「私も」
「みんなと同じく」
「先輩、俺も務まらないに賭けて良い」
「みんな同意見だね」
「そんな事は聞かないでも分かる」
「これじゃ賭けにならないな。何時間で戻ってくるかを賭けにした方が良い」
何時間で帰ってくるかで賭けが始まった。
俺は1時間以内に賭けた。
30分経たないうちにベークが帰って来た。
「聞いてくれ。貴族の俺に向かって掃除しろと言うんだ」
「分かるよ。貴族の仕事じゃないと理由をつけているが、そうじゃない。やった事がないんだろ。失敗を恐れたんだ」
「なっ。僕が臆病だと言いたいのか」
「考えろ。その問題を克服するにはどうしたら良い」
「掃除の仕方を教えてもらう」
「そうだな。それが賢い選択だ。マイラ、教えてやれ」
「嫌だけど、タイトの頼みなら仕方ない」
おも研の部室をベークが掃除し始めた。
マイラの指示に従って邪魔な物を片付ける。
そしてほうきで掃いて、雑巾がけだ。
初めてやる作業が楽しいのか、ベークは笑いながらやっている。
そんなに悪い奴でもないのかもな。
育った環境が性格とマッチしなかった。
向上心より人に何かしてもらう癖が先についた。
「ご苦労様。銀貨1枚だ。売店で食い物でも買って来ると良い」
「下々はこうやって稼いでいるのだな。悪くない気がする。今までお金なんて大した価値がなかったが、この銀貨1枚は尊いような気がする」
「それが分かれば、やっていけるだろう」
「頼む。おも研に入れてくれ」
どうするかな。
くる者拒まずだよな。
拒否するのはどうかな。
エミッタなら面白いぐらい言いそうだ。
「分かった。入部届けを書け」
「恩に着る」
ベークは入部届けを書くと部屋を出ていった。
そして、自分の食べ物と菓子を買って来た。
「施しだ。受け取れ」
「銀貨を払ったのはタイトだけどね」
「こういう時はみなさんでどうぞだな」
「そうか、こういう時はみなさんでどうぞか」
まあ、悪気はないのが分かっているから、みなも気を悪くしたりはしないようだ。
ベークは食べ終わると。
「掃除の実戦を経験してくる」
「頑張れよ。分からなかったら誰かに聞くんだぞ」
「ああ」
頭は悪くないようだ。
要領もな。
ドジっ子属性はないようだ。
とりあえず、掃除レベル1を覚えたというところか。
貴族なんだから、魔法で掃除すればいいのにな。
そこを考えつかないのがまだまだだ。
アルバイトすればテクニックは色々とやっていくうちに覚えるだろう。
変なプライドで喧嘩したりしないと良いけどね。
嫌な奴は職場に一人はいるものだから。
苦労するがいいさ。
あの様子だったら、没落は確実だったからな。
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