第209話 知力と、連立方程式と、転生特典
ベークがまたやって来た。
今度は早いな。
「勝負だ。次は知力を競う。問題も作ってきた」
ベークが作ってベークが解くのか。
それはいくら何でも、卑怯だろう。
「とりあえず問題を見せてみろ」
「いいだろう。問題は何百とある」
俺は問題用紙を一枚見せてもらった。
一問目はこうなっている。
リメル4個とナルル3個で銀貨1枚と銅貨34枚。
リメル3個とナルル2個で銅貨96枚。
リメルとナルルそれぞれ1個の値段を求めよ。
ちなみに、リメルとナルルは果物の名前だ。
二問目も同様だ。
ああ、連立方程式ね。
ベークはカンニングするんだろうな。
じゃあ俺も魔法でカンニングするか。
行列を使えば、連立方程式はプログラムで解ける。
「一時間後でどうかな。長丁場になるから、食べ物とか飲み物も用意したい」
「ふん、余裕なのも今のうちだけだ」
そう言うとベークは去って行った。
「私達は何が出来るかな」
セレンの申し訳なさそうな顔。
「そうだな。みんなは数学の教授を連れて来てくれ。連立1次方程式の問題を持ってくるのを忘れるなよ」
「ええ」
マイラは残った。
「料理と飲み物がいるのよね。調達してくる」
いや、要らないよ。
でも、それを言ったら角が立つ。
1時間後、準備は整った。
「げっ、何で教授がいる?」
「そりゃあ、問題を提供してもらう為だ。採点もな」
「卑怯だ」
「問題はさっき見せられたのと同等の奴だ。別に卑怯ではないだろう。何が問題なんだ」
「そ、それは。ばいしゅ……」
「おいおい、ここは魔法学園だぞ。エリートが集まる所で、しかも王族の管轄だ。失礼な事を言ってると評判が悪くなるぞ」
「ぐぬぬ。まあいい」
数学の勝負が始まった。
俺はマイラが用意したお菓子と飲み物をやりながら、問題を鼻歌混じりで解く。
30分ほどで、すべての問題を解き終わった。
入力の手間だけだからな。
ベークは6時間ほど掛かって問題を全て解いた。
「言っておくが、間違っていたら、減点だからな」
「教授、ご足労かけます」
「もう勝負は着いておる。タイト君の勝ちだ」
「俺の答案の採点は?」
ベークが顔を真っ赤にして言った。
「タイト君は全問正解。ベーク、お前は1枚目を1問、間違っとる」
「そんな、あのポンコツ魔導師の野郎」
「魔導師がどうかしたのか?」
「いや、……」
「この勝負、俺の勝ちだな」
「くそう、まだ一回ある」
俺はふと疑問に思った。
連立方程式を解くプログラムだ。
なんで覚えている。
習った事がないという訳ではない。
大学でやった記憶がある。
連立方程式を解くプログラムはいくつか手法がある。
2次方程式さえ解けるんだからな。
それは別にいい。
問題なのはそういうプログラムは細部まで覚えてないはずだ。
社会人になってそういうプログラムを作れと言われたら、ネットでサンプルでも漁らないと作れない。
完全記憶なんて持ってないはずなんだが。
どういう事か大体推測はつく。
英単語のスペルミスもほとんどない。
たぶん、前世の記憶を、過去だろうが、全て覚えている。
転生特典なのだろうか。
「難しい顔してどうしたの」
心配そうなセレンの顔。
「いや、少し不思議な事があったから」
「不思議には全て理由がある。私の好きな学者の言葉」
理由は転生特典。
シンプルな答えだ。
今はそれで良い様な気がした。
「この問題、難しい」
マイラが眉間にしわを寄せて言った。
「連立1次方程式はあまり難しくありませんわ。タイト様ほど早くは解けませんが、時間を掛ければですわ」
レクティは優秀だな。
「こういうのはさっぱり。頭が痛くなる。ねっ、サイリス」
リニアはサイリスをかまっている。
「タイトは凄い。私の憧れだ」
とセレン。
「聞いたぞ、セレンが教授を説得してくれたんだってな」
「まあそうだけど」
「何と言って説得したんだ」
「若者が数学の知を競っています、これに手を貸すのは教授の役目ではありませんかと言っただけよ」
「真っ直ぐだな。セレンの良い所だ」
「搦め手からいかないと。常に死角からの一撃」
「そうですわね。根回しは重要ですわ」
「腕力で大体解決するよ」
みんな個性があるな。
ベークの駄目な所が分かった。
あいつは自分でやろうとしない。
最初の勝負も部下任せだったんだろう。
全てがそれだ。
他人に任せるのも重要だが、やれる所はやらないと。
次はどんな勝負で来るのかな。
少し楽しみだ。
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