第220話 ダンスパーティと、火事と、タイト・マイラ結婚記念ホール

 学園は5月、ダンスパーティの季節だ。

 催し物は出会った順番でパートナーを務めるという事で今回はマイラだ。


 星崇拝教団は今のところ沈黙を保っていた。

 こういうイベントの時は何か起こるような気がする。


 マイラと腕を組んで会場入りをする。

 まばゆいばかりのシャンデリア。

 ゆったりとした音楽を奏でる楽団。


 どこも異常はないな。


 俺とマイラは音楽に合わせて踊り始めた。


 突然、扉が閉められる。


「開かないぞ」

「こっちもだ。くそう、閉じ込められた」


 どうやら始まったらしい。

 そして外が明るくなった。


「きゃあ、火事よ」


 火を点けたのか。

 まったく。


 俺は扉に向かって石の砲弾を魔法で撃ち出した。

 轟音と共に扉が砕け散る。

 外にはバリケードも作られていたようだが、粉砕されたらしい。


 中に居る人間が次々に逃げ出す。

 俺とマイラが外に出ると、犯人は逃げ去った後だった。


「蜘蛛がいる」


 舌打ちしてそう言うマイラ。


「レクティ」


 俺は暗闇に話し掛けた。


「犯人ならもう分かっていますわ。星崇拝教団です。神官が次々に死ぬので、焦れたようです」


 やっぱり、レクティが出て来た。

 マイラの視線と言葉でいるのが分かったのだ。

 セレンとリニアもいる。


「お粗末な計画だ。火事ぐらいじゃ俺達は死なないのにな」

「死の恐怖に、正常な判断が出来なくなっているようです。王家の影にはもう通報済みです」


 やる事がないな。

 火事を消すか。

 魔力100万のパワーで水を生み出し火を消す。

 何度か繰り返すと、火は完全に消えた。


「パーティ会場のダンスホール再建のための寄付を出すとしようか」

「私も出すわ。もう一回やり直しをしてもらわないと」


「ずるい。次は私なのに」

「マイラ、やり直しはセレンに譲ってやれ。その代わりに建て替えたダンスホールで一番に踊ろう。観客なんかいないでもいいだろう」

「分かったセレンに譲ってあげる。こけら落としの1番最初は私よ」

「ではわたくし達も練習で」


「うん、みんなもと踊るよ。楽団も手配しよう。金を使わないと経済が回らない」


 レクティの部下が報告に来た。

 魔導師は全て死んでいたそうだ。

 原因は急死防止の魔道具だ。


 死の恐怖が訪れる→急死防止の魔道具で精神が安定する→だが同僚が死ぬ→死の恐怖が訪れる→急死防止の魔道具を追加して精神が安定する。

 こんな無限ループだ。

 精神を安定させるほど死の時期が早まる。

 俺が作っている魔道具には全てウィルスが仕込んであるから、犯罪を犯して逃れられる魔導師は少ないだろう。

 俺が作った魔道具は性能が段違いだからな。

 使わない手はない。


 そして、学園内の星崇拝教団は消滅した。


 ダンスホールの建て替えを視察していたら、逆さ五芒星のワッペンを付けた作業員を見た。

 懲りない奴らだな。


「色んな細工がされているよ」


 一緒に来たマイラがそう言った。

 ダンスホールの建て替えに細工をしているらしい。

 今度こそ俺を殺そうというのだろうか。


「レクティ、建て替えが終わったら、細工を無効化しておいてくれ」

「お任せを」


「一見無効化が分からないようにな」

「承知しております」


 レクティの所はプロの集団だからな。

 心配はしてない。


 俺は入口にあるダンスホールの名称を何気なしに見た。

 『タイト・マイラ結婚記念ホール』とある。

 何だって。


「これが金の力」


 セレンが驚いている。

 俺以上の金をマイラは出したらしいな。

 ちょっと恥ずかしいが、仕方ないな。

 外せとも言えないし。


「ちょっと手が滑って表札を壊しちゃうかも」


 と冗談を言うリニア。


「第一の表札が倒れても、第二、第三の表札が蘇るであろう」


 胸を張ってマイラがまぜっかえす。


「くっ、勇者は負けない」


 リニアよ、表札と戦うなよ。

 中に入って控室を見ると、そのうちの一つに。

 『タイト様、レクティ様、ご夫婦様の控室』とある。


 レクティもこそっと寄付したんだな。


「くっ」


 リニアが悔しそうだ。

 セレンは呆れている。


「責任者、タイトと私の控室も作って、金に糸目は付けないわ」


 マイラが責任者を呼ぶ。


「くっ。軌道に乗って来たアリの素材取引の儲けを回せば」


 リニアが迷っている。

 財力でマイラとレクティに張り合うのは、やめとけよ。


「リニアさん、諦めましょう。私達には無理よ」

「くっ、いつか」


 リニアよ、いつかリベンジが叶うといいな。

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