第221話 こけら落としと、入れない鍵と、怪しいリッツ

 今日はダンスホールのこけら落とし、だいぶ早い完成だ。

 1ヶ月掛かってないんじゃないかな。


 楽団もスタンバイして、マイラと踊る。

 何曲も踊って汗をかいたので、控室に行こうとした。

 俺が使う控室でない部屋の前でリッツとソレノが揉めている。

 ソレノはリッツの彼女だ。


 リッツとソレノはスーツとドレスを持っている。

 ここで着替えるつもりなんだな。


 こけら落としをやると言ったら、リッツが踊りたいと言ったので、許可を出した。


「何で入れないんだよ?」


 何だろう。


「どうした?」

「ああ、タイト先輩。鍵が合わなくて、入れないんだ」


「控室使用の許可は取ったんだろうな」

「それは……。でも、この鍵で入れるはず」


「鍵はどこで手に入れた?」

「見知らぬ人から売ってもらった」

「つかまされたな」


「高かったのに。じゃあ正面入り口の鍵も偽物。一年中ダンスホールが使い放題って話も嘘なのか」

「ねぇ、リッツ、その鍵要らないわよね」


 ソレノがそう言った。


「欲しいの? 何に使うんだよ?」

「アクセサリーにでもしようかと思って。ほら高くっても、私へのプレゼントにすれば、納得できない」

「うん、納得できる。流石、僕のソレノ。はい、鍵」


「くしゅん」

「マイラ、汗をかいて冷えちゃったな。早く着替えよう」

「うん」

「リッツ、鍵ならマイラが持っている。マイラ貸してやれ」

「控室に置いてあるから、取って来る」


「聖女マイラ様、恩に着ます」


 控室に入るとマイラが鍵を渡しに出る。

 俺は服を脱いだ。

 開放感。

 こういう特別な服ってなんできついんだろう。

 ゆったりとした感じで作ってくれてもいいのに。


 シャワー室に入る。

 この控室はシャワー完備だ。

 冷蔵庫もエアコンもある。


 シャワーから出て冷たいジュースを飲んだ。

 マイラが帰ってきた。

 マイラの服を脱がすのを手伝う。


 マイラもすっぽんぽんになってシャワー室に消えってった。


 やばい、自然に振る舞ってしまった。

 くそう、毒されている。

 この後、3人と踊るけど、これをまたやるのかな。

 断固、拒否する。


 3人とは1曲ずつにしよう。

 それなら、俺以外は汗をそれほどかかないだろう。

 俺だけシャワーすれば良い。


 着替えて、ダンスホールに戻る。

 リッツとソレノは既に踊っていた。


 3人と1曲ずつ踊った。


「ずるい。マイラとは何曲も踊ったのに」


 リニアが不満を漏らす。


「体力はあるほうだけど、流石に4人相手はきつい。勘弁してくれ」

「そうよね。リニアさん、違う日に踊りましょう」


「それって、マイラに頭を下げないといけないって事よね」

「ふふん、私はケチじゃないから、頭を下げれば、使わせてあげてもいいわよ」

「ぐぬぬ」

「リニアさん、諦めましょう。マイラさん、ダンスホールを使わせて下さい」


「ええ、良いわよ。リニア、お願いしますは? うりうり」

「お願いします。ぐっ屈辱」


 レクティが何も言わない。

 レクティも金を出しているから、ダンスホールを使うのは出来る。

 だから何も言わないのか。


「レクティともまた今度踊るよ」

「ええ、ダンスパーティは頻繁に開催されていますから、よろしくですわ」


 そうか、ここで踊る事にこだわらなくても良いのか。

 でもレクティ以外だとダンスパーティはきついかも。


 服や靴はともかく、馬車なども用意しなくちゃならない。

 それに招待状だ。

 上流階級の付き合いがないと用意出来ない。

 マイラなら力技でなんとかしそうだけど。


「先輩、ありがとう。おかげでソレノと楽しい思いができました」

「言ってくれれば、また使わせてあげるよ」

「お願いします」


 レクティに後でと耳打ちされた。

 何だろ。

 ダンスパーティの事じゃないよな。


 寮に戻るとレクティが深刻な顔で切り出した。


「あの鍵、細工されたのとぴったり合います」

「リッツが星崇拝教団に取り込まれた」

「まだ分かりませんがおそらく。ソレノが交友関係を洗っています」


 ソレノはレクティがリッツに紹介した彼女で、オルタネイトの諜報機関に属している。


「身内を疑うのは嫌だな」

「ですね。諜報機関も2重スパイとかが出ますから、そういう時は心が痛みます」


 でもなぁ。

 うーん。

 いや。

 リッツは白だな。

 状況からするに白。

 俺がそう信じたいだけかも知れないが、そんな気がする。

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