第142話 実験台07番と、サイリスと、守護者

Side:実験台


 私は実験台07番、昔の名前なんてとうに忘れた。

 閉じ込められているのは、鋼鉄製の檻。

 ここにはいくつもそれがある。


 何人もの人間とここで仲良くなって、そして永遠の別れを告げた。

 憎い、この研究施設の人間が憎い。


「サイリス、もう私は長くないみたい。仲が良かった仲間達の元へ行くわ」


 私は隣の檻にいるサイリスに話し掛けた。


「くぅん」


「おい、実験台07番。実験だ」

「グルルルル」

「サイリス、抑えて。暴れるとまた痛めつけられる。私の為に悲しまなくてもいいのよ」


 檻の隙間から手を伸ばしてサイリスを撫でた。


「くぅん」

「よしよし、良い子」


「ぼやぼやするな」


 私は手術台に乗せられ、わけの分からない物を埋め込まれた。

 そして、調べられた後に檻に戻された。

 隣の檻のサイリスの元気がない。

 どうしたのかしら。

 私はぐったりして指一本動かせない。


 サイリスが連れていかれるのを私は夢うつつで見ていた。

 しばらく経ってサイリスが檻に戻される。


 サイリスはキメラとしか言えない状態になっていた。

 頭は2つに、足は6本。

 尻尾は2つ。

 酷い酷すぎる。

 こんなのってない。


 サイリスも、もう長くはないようだ。

 サイリスの体が不規則に蠢いている。

 拒絶反応が起きているに違いない。


 最後に撫でてやりたい。

 私はありったけの力を総動員して隣の檻に手を伸ばそうとした。

 魔法なら。

 でも、この檻は特別製で魔法が封じられている。


 そんなの関係ないわ。

 いざという時に人間は、物凄い力を発揮できるはずよ。


「【魔力よ、手足を動かせ】」


 檻の上部に設置されている特大の魔石が砕けた。

 私の手が動いた。

 檻の隙間から手を伸ばしてサイリスを撫でる。


「グルルル、くぅん」

「よしよし」


 私の手がサイリスにピタリと張り付いた。

 拒絶反応に巻き込まれたようね。

 短い人生だったけどこんな終わり方も悪くない。


 そして。


「おい、実験台07番と実験台78番が融合してるぞ」


 私は目を開けた。

 体の不調なんて微塵も感じない。


 今なら何でもできる気がした。

 私は檻に手を掛けると、鋼鉄のパイプを引き千切った。


「ひっ、檻に戻れ。実験台07番」

「その名前で呼ばないで」


 私は研究員を殴った。

 腐った果物のように研究員の頭は潰れた。


「グルルル。サイリス、思いっ切り暴れてやりましょ」


 まず、忌々しい檻を全て引き裂いた。

 壁を殴る。

 壁に蜘蛛の巣状にひびが入り崩れた。

 隣の部屋に入ると研究員が驚いた眼で私を見た。


「素晴らしい! とうとう、やり遂げたぞ! 我々は人工的に魔王を作ったんだ!」

「うるさい」


 私は研究員をビンタした。

 首が折れ曲がる研究員。


「警備員! 取り押さえろ! 実験台が逃げ出した!」

「出来たらね」


 瓦礫を掴むと入って来た警備員に投げつけた。

 警備員は吹き飛んで死んだ。


「ははははっ、グルルル。そうよね。サイリスも、もっと暴れたいわよね」


 私は素手で、研究所を破壊した。

 もちろん研究員は皆殺し。


「あれっ、体が」


 体に力が入らなくなった。

 そして、再び檻に戻されているのに気づいた。


「良く聞け。お前の体は定期的に投薬しないと崩壊する。暴れても良いが、投薬なしでは生きられんぞ」

「サイリス、どうする?」


 わふんと返事があった気がした。

 そう、ここは生き延びる事を選べと言うのね。

 良いわ、そうしましょ。

 でもいつか必ず復讐を果たす。

 サイリスとの約束よ。


「実験はもう嫌。檻から出してくれるなら何でもするわ」

「よかろう。実験はしないがデータは取らせてもらう。工作員として活動しろ。お前のコードネームは守護者だ」


 私は目が覚めた。

 あの時の夢を見るなんて。


 リラの花言葉が『思い出』と『友情』なんて話を聞いたからかしら。

 偽名がリラでなければ良かったかも。


 でも元気だった頃のサイリスに会えた。

 それは感謝しないと。

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