第143話 4回戦と、昼飯と、戦闘の形跡

 今日は4回戦。

 どうしても、リラが気になる。

 リラとエミッタの対戦を見に行く。


「始め!」


 エミッタが爆発で粉をばら撒いた。

 煙幕の効果を狙っているのか。

 煙幕は広がるまで時間がかかるが、粉を爆発で吹き飛ばせば一瞬だ。

 確かに有効な手だが、次の一手はどうするんだ。

 双方が見えないんじゃ動けないだろう。


 爆発が起きて立ち込めた粉塵が吹き飛ぶ。

 エミッタの狙いが、分かったぞ。

 動けなくして、削っていくつもりだ。


 魔力を飛ばして、爆発させるのは時間が掛かる。

 なぜかとというと魔力のみの移動は遅いからだ。

 相手のすぐそばでいきなり魔法を出現させようと思ったら、普通に飛ばすのより倍以上の時間が掛かる。

 だから、粉で煙幕を張って動けなくしたんだな。


 次の瞬間、エミッタが場外に弾き飛ばされた。

 粉が全部落ちると、リラが中央に立っている。

 粉の中でもリラは行動できるらしい。


「勝者リラ!」


 マイラとレクティの試合を観戦する。

 レクティが魔石をばら撒く。

 マイラはというとつぶてを飛ばし、魔石を弾いてレクティに接近していく。

 魔石のいくつかは爆発を起こしたが、マイラには届かない。


「降参です」


 レクティがあっさりと降参した。

 切り札をまだ隠しているような感じがしたんだけどな。

 こんな試合じゃ手の内は明かせないって事なのかも知れない。


 他の結果はというと。

 アキシャルとカソード戦はアキシャルの勝ち。

 セレンと名前を知らない男子生徒の戦いは、セレンの勝ちだった。


 リラとセレンとアキシャルとマイラが、準決勝に進む事になる。


「みんなお疲れ」

「負けちゃったのだ。リラ君はどうやって粉塵の中で状況把握をしたのだ?」


「えへへっ、乙女の勘。きゃは、乙女レーダー装備してるの」

「乙女の勘じゃ仕方ないのだ」


 そんな訳あるか。


「マイラなら煙の中でどうやって戦う?」

「風を肌で感じれば、動きは分かる」


 うーん、リラもその手を使ったのかな。


「ぶー、違うよ。乙女レーダーだもん」


 リラが不服そう。

 なんとなくマイラの言っている事が違うような気がした。


「僕なら大地の声を聞くよ。根を張り巡らすのさ」


 アキシャルなら、振動を感知するのか。

 その手もあるな。

 リラは違うと言っているような気がする。

 まあ、別に良いだろ。


「みんなで昼ごはんを食べに行くのだ」


 賛成の声が上がった。

 美味いと評判の定食屋に行く。


「ごめーん、リラ用事を思い出しちゃった。すぐに戻るから注文お願ーい」


 リラが席を外して、しばらくして帰ってきた。

 ふと、リラを見ると袖に血がついている。


「血が付いてるぞ」

「いけっなーい、帰って、洗濯しなきゃ。リラったら、暴漢の喧嘩を止めたんだよ。偉いでしょ。褒めて褒めて。リラは褒められて伸びる子」

「偉いのだ。頭を撫でてあげるのだ」


 リラがエミッタに頭を撫でられ目を細める。

 撫でられるの好きなのか。

 孤児院育ちだと言っていたから、年上に撫でられるのに慣れているのかもな。


 料理が運ばれてくる。

 俺の位置からは見えるが、リラからは背後だ。

 リラは後ろに手を伸ばしてお盆の上の料理を取った。


 腕の関節の柔らかさも驚きだが、まるで背後が見えているみたいだ。

 リラはマイラ並みの感知能力がある事が分かった。

 何を感知しているかは分からないが。


 定食5人前がリラの胃袋に消えていく。

 いつも通り大食いだな。


「喧嘩の原因は何だったのだ?」

「グループが2つあって、とっても仲が悪いの。会うと必ず喧嘩になるんだぁ。もう、ぷんぷん。怒っちゃうよ」


「どうやって収めたのだ」

「もちろん、可愛く両方に、ってやったの」


 リラの話が本当だとすれば2つのグループが戦闘していた事になる。

 なんか引っ掛かるんだよな。

 何だろ。


 リラが本当の事を言っているとしたら、密偵失格だな。

 何がしたいんだろうな。

 戦果を誇示したかったのか。

 リラの気持ちが分からない。


 食事が終わった後にレクティと話す事にした。


「この付近で戦闘が起こったはずなんだが、分かるか?」

「戦闘の形跡はありませんね。あれば護衛が感づいているはずです」


 レクティの護衛は常にいるらしい。

 誰がそうなのか分からないが、店の客とか色んな所に紛れているのだろう。


「遮音の魔法を使ったってのはどうだ。俺にも同じ事が出来る」

「なら分かりませんね」

「念のためこの付近を調べてみてくれ」

「ええ」


 寮に帰ってしばらくして、レクティが報告に来た。


「血痕と複数人の足跡がありました。地面の痕跡から推察すると、激しい戦闘が行われたようです」

「リラの話は本当だったみたいだな。密偵が情報を漏らすってどう思う」

欺瞞ぎまんにしてはお粗末に感じます。リラは密偵ではない気がします。目立ちすぎますから。でも刺客というのも違うような」

「そうだよな。どういうつもりなのか、魂胆こんたんが分からない」

「おそらく護衛ではないでしょうか」


「護衛か。なるほど、それは考えてなかった」


 となると護衛対象は俺だよな。

 そうなると、狼仮面と別人物?

 ああ、もう分からん。

 護衛という推論が間違っているのかも。

 とにかく謎だ。

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