第81話 新しい技術と、プログラマーと、色々な情報

 うがぁ、新しい魔道具の技術なんて思いつかない。

 プログラムのループ、ラベル、分岐、サブルーチンの概念はやったから、やるとすれば戻り値ぐらいか。

 そんなのやっても俺のプログラム的魔法で作った魔道具には及ばない。


 ソフト面でなくてハード面から攻めるべきか。

 魔石を砕いて粉にしてみた。

 魔石は宝石ほど硬くはないから簡単に粉になった。


 さてどうする。

 粉にした魔石は吸収する魔力量が減る。

 一粒一粒に呪文を焼きつけて魔道具にするのは骨が折れる。

 意味がないな。


 これを使う利点は?

 体の中から魔道具を起動させられるぐらいか。

 でも、魔法は抵抗しなければ、体の外からでも中に通る。


 利点はないな。

 粉にするより、逆に大きくした方が利点があるぐらいだ。


 粉にしたのなら、水に溶いてみるか。

 水には溶けないが、酸には溶けるみたいだ。

 液体にしても、これといって使い道が思いつかない。

 紙に書けるのは利点だが、薄い魔道具に使い道はあるかな。


 持ち運びには便利だな。

 作って見るか。


「何やってるの?」


 マイラが好奇心を発揮して俺の手元を覗き込んだ。


「紙型の魔道具。作ったんだけどね」


 試しに灯りの魔道具を作ってみた。

 だが、紙を折り曲げると、灯りが消える。

 接触不良みたいな事が起こったんだな。


 折り曲げたら動作しないなんて、とんだ不良品だ。

 元に戻しても発動しない。

 しわが影響しているんだな。

 元に戻したら復活するのなら、面白い使い方も出来たのにな。


「折り曲げたら駄目なんだったら、板に書いたら?」

「それしかないか。でも、かさばると利点が薄くなる」


「少しインクを貰っていい」

「少しと言わず全部持って行っていいよ。こんなのプログラマーが考えることじゃない」


 それにしても、インクだと魔石の含有量が少ないから、魔力量が少なくて、プログラム的魔法でないと実用になる物は作れない。

 このインクはマイラに任せよう。

 奇術に使うような何か上手い手を考えるかも知れない。


「プログラマーって何?」


 おっと、いけね。

 つい口走っていた。


「魔法の呪文を考案する職業の人をそう名付けた」

「そう」


 少し頭を使ったから、休憩だ。

 エレクと遊ぼう。


 棒の先に毛玉を付けた玩具をエレクの前で振る。

 エレクも遊んで欲しかったようだ。

 目で棒の先を追って、タイミングを見て手で押さえる。


 そんな遊びを何回か繰り返した。

 ドアがノックされる。


「開いてるよ」

「お邪魔します」


 入って来たのはダイナさんだった。

 エレクに歩み寄ると抱き上げ、エレクの首筋を顔で撫でた。


「良い子にしてましたか。少し太ったみたいですね」

「運動不足かな?」

「野良猫の食事事情は良くないのでこれぐらいなら、大丈夫だと思いますよ」


「そうかな。キャットタワーを作ろうかと思うんだ」

「いいですね。喜ぶと思います。ところで、王都の不動産が最近安いようです」


「へぇ、お金がかなり余っているから買ってみようかな」

「業者を紹介しましょうか」

「なら頼もうかな」


 本来なら、魔道具関連で儲けた金は、バリアブルで潰れた工房とか流民とかの救済に回すべきなんだろうけど。

 施しは良くないと何人もに言われた。

 人間は堕落するからだそうだ。


 余剰の人間を雇ってやるのが一番良いのは分かっている。

 でも工房の経営なんてのはプログラマーの範疇には入っていない。


 こういうのはオルタネイト伯爵とかに丸投げしたい。

 投資してくれと言われたら二つ返事で承諾するのに。

 オルタネイト伯爵も金に不自由はしてないからな。


 さっき言ってた不動産を買って、格安で流民相手に貸し出そうかな。

 それぐらいが一番いいような気がした。

 格安で貸す代わりに修繕や管理は貸した相手にやってもらう。

 これなら手間が掛からない。


 また、ノックの音がした。

 返事を待たずに、ランシェが入って来た。


「入るぞ」

「いらっしゃい」


「毒薬の件は、ほとんど方が付いた」

「そう、良かった」


「毒感知の魔道具は良く出来てるな。王国で採用したい」

「じゃ、クラッド商会に納めるから」

「あとで注文しておこう」


「話はそれだけ?」

「クッキーの毒だけがまだ分からん。おそらくプロの殺し屋だろう」


「に゛ゃー。ふしゃー」

「エレク、ごめん。痛かった」


「気をつけるよ」

「ぐれぐれもな」


 毒感知の魔道具は学園にも多数寄付しよう。

 下剤程度とはいえ、ないにこした事はないからな。

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