第82話 不動産屋と、事故物件と、マッサージ店

 ダイナさんの紹介で不動産屋に会いにいった。

 大店で手広くやってそうな店で安心した。


「いらっしゃいませ。紹介状にあった格安の物件はまだ売れていません。買うなら今のうちです」

「一応、見てみない事にはな」


「はい、今から案内します」


 連れて行かれて、物件を見て回る。

 どこも傷んでいる箇所はあるが、良いんじゃないかという感じだった。


「ではお買い上げと言う事で、契約書にサインをお願いします」


 契約書にサインを済ませ、金を払った。

 オルタネイト伯爵に寮を提供する事を話さないと。

 レクティに話すか。


 レクティが勤めている工房にお邪魔した。


「不動産を大量に買ったんだ。寮に使うのはどうかなと薦めに来た」

「どこです」


 俺は不動産屋から貰った地図を見せて、指で物件を指し示めした。


「これは、騙されましたね。安かったでしょう」

「安かったな」

「訴えるのは難しいところですね。物件の値段は正当です」

「事故物件なのは分かったが、どういう事故なんだ?」

「犯罪組織のアジトになってます」


「叩き出したら、不味いのか?」

「不味くないですね。出来るのなら。それこそ魔王でも連れて来ないと」

「何だそんな事か」


 良かったよ。

 幽霊が出るとかじゃなくって。

 除霊の魔法はさすがに思いつかない。


 買った物件で一番大きな屋敷から始める事にした。

 扉を開けると問答無用で電撃をばら撒く。


「敵襲、あばばば」

「ぐぁ」

「どこの組織、ぐがっ」


 電撃で痺れさせ、マイラが次々と縛り上げる。


 ランシェに連絡を入れたのでしばらくして近衛兵が駆け付けた。


「ご苦労様」

「おい、全員しょっぴけ」

「こいつは、金貨100枚の賞金首」

「こっちもだ」


「残念でしたな。王族では賞金は出ません」

「いいよ。お金ならある。この間も毒検知の魔道具で、たんまり儲けたからさ」

「あれは良い物です。捜査に非常に役立っています」


「犯罪組織の人で、釈放するような罪の軽い人は、連れて来て」

「どうなさるのですか?」

「知り合いの商会で働かせる」

「それはまた情け深い」


 クラッド商会に丸投げするつもりだ。

 あそこなら受け入れてくれるだろう。

 ゴブリン農場も拡充する予定だと聞いたし、人手がいるに違いない。


 それから、全ての物件を綺麗にした。


「すみませんでした」


 ダイナさんが菓子折りを持って、謝りにきた。


「儲かったし、実際に安かったし。王都の治安が良くなったから、問題はないよ」

「そうですか。ちなみに何人ぐらいいましたか?」

「大きい屋敷だと数百人はいたかな」

「お強いのですね。何人ぐらいまで対処できるんですか?」

「1万人ぐらいは余裕だな」

「そうですか」


 ダイナさんの表情は読めないが、徹夜帰りのサラリーマンの雰囲気がした。

 そんなに気に病まなくてもいいのに。

 ランシェが訪ねて来た。


「聞いたぞ。王都の犯罪組織の半分を壊滅させたらしいな」

「へぇ、残りの半分もやりましょうか」

「叩き潰すのなら、奴らが所有している物件も、そなたに渡すぞ」

「太っ腹だね」

「賞金、代わりだ」


 よし、大掃除だ。

 ダイナさんが更に疲労した気がした。

 やだな。

 ランシェが持って来た件は関係ないのに。

 それとも血の雨が降るとでも思っているのだろうか。

 殺さないよ。

 労働させるんだ。

 せっかくの労働力。

 逃がすものか。


 賭場や違法な娼館や事務所を襲撃した。

 どれも繁華街で立地は良い。

 流民の寮にするのは勿体ないな。

 それに、騒がしくてゆっくり眠れないような場所でもある。


 仕方がないので、マッサージ店とした。

 もちろん真面目なマッサージだ。

 元犯罪組織の男達が、コリをもみほぐす。

 安い事もあって評判は上々だ。


 赤字だが、俺が寮の儲けから補填した。

 寮は修繕を住んでいる人に任せているので、金が儲かるだけだ。

 マッサージ店の赤字を補填してもまだ余る。


 それに驚いた事に王族は無税。

 貿易なんかの税は掛かるけど、商売の儲けは無税。

 王族は出費も凄いから、頷ける話だ。

 俺はほとんどそういう出費はない。


 しばらく経ってマッサージ店も黒字になった。

 また、金の使い道を考えないと。

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