第333話 魔導金属と、喧嘩と、罰

「魔闘術で鉄を作ってみたんだが。おかしな鉄が出来たんだ」


 トレンが持ってきた鉄を見るとうっすらと光っている。


「光っているな。理由は分かるか。ヒントがあればいい」

「鉄を引き寄せた後に、魔力の流れを循環させたんだ。ある特殊な流れのな」

「なんでまたそんなことを?」

「聞かないでくれ」


 トレンの顔は真っ赤だ。


「嬉しいな」


 リッツが喜んだ。

 なんのことだか。


「言っておくがリッツのためじゃないぞ。将来のための練習だ」


 トレンが真っ赤な顔のままそう言った。


「まあいいや。魔力の流れならマイラだな。マイラ、ちょっと来てくれ!」

「はいよ」


 マイラが来て、不思議な鉄を見る。


「魔力が循環しているね。散っていく魔力はほとんどない。確かめてみないと分からないけど、たぶん頑丈になっていると思う」

「そうか、他の金属と比べてみよう。これに術を施してくれ」


 この国で流通している鉄貨と、スライダーから持ってきた銀貨と金貨を出した。

 トレンが術を込める。


 一番柔らかい金貨を曲げようとした。

 ほんとうだ、曲がらない。


 銀貨もだ。

 鉄貨は元々硬いから道具でやってみないと分からないが、硬くなっているんだろうな。


「ちょっと貸してみて」


 マイラが着火の魔法で貨幣を炙る。


 鉄貨は何にも反応なし。

 銀貨は炎を大きくした。

 金貨は炎を吸収。


 おお、どれぐらいの時間、効果があるか分からないが、付与術と言ってもいいな。

 これは大きな特産品だ。


「鉄はアダマンタイト、銀はミスリル、金はオリハルコンがいいな。どれも素晴らしい特産品だ」

「これがどれほどの価値なのか私でも分かる。特に素晴らしいのは、これは女性の技だということだ。報われない女性が裕福になるのは嬉しいことだ」


「ディッブに金鉱と銀鉱は?」

「どちらもない」

「じゃあ輸入だな」


「俺、頑張るよ」


 リッツの商会が頑張るらしい。

 あそこはオルタネイトだから、まあいいだろう。

 きっと、3つの金属をうまく使うさ。


 アマダンタイトは兵士の向きの防具だな。

 ミスリルは杖とか剣だな。

 オリハルコンは高級な防具だ。


 トレンは早速、ミスリルの剣を作った。

 男の議員の一人がそれを見て、せせら笑った。


「おのれ侮辱したな。【トカスイミキカク・ナセ】」


 珍しいことにトレンが魔法を使った。


「コスニミキ・ニカ・ラミ」


 男の様子を見ると煽ったのだろう。

 トレンは青筋を立てて斬りかかった。

 男と手を光らせ剣を受けた。

 が吹っ飛ばされた。


 ミスリルの魔法増幅機能は侮れないな。


「トレンもそれぐらいにしとけ」

「分かった」


「双方から話を聞かないとな。マイラ、議員を起こせ」

「うん」


 マイラが議員を起こす。


「じゃあ双方の言い分を聞こうか。議員さんからどうぞ」


 リッツが翻訳してくれた議員の言い分はこうだ。

 ディッブではものをいうのは、体を使った技。

 武器になど頼る奴は卑怯者だ。

 笑って何が悪いと。


 トレンの言い分は聞かなくても分かるが一応聞いた。

 せっかく大発明したのに笑われたから、かっとなった。


「技というものは時代が変わると変わる。変わらないものなどない。たぶん半世紀しないうちにディッブは武器を使う国になるだろう。断言してもいい。だからトレン、笑いたい奴は笑わせとけ。議員さん、時代は変わるんだよ。そういうのを見ないふりしていると、後悔するぞ。じゃあ喧嘩両成敗で両方には事務仕事1週間な」

「そんな」

「トクニカ」


 顔を見れば判るが罰になったようだ。

 法律として制定してもいいな。

 喧嘩したら双方が事務仕事1週間。


 怪我とかしたらまた扱いが違うけどな。


「トレン、最初の事務仕事は喧嘩した時の罰則の法律を作ること。事務仕事1週間を推奨する。怪我した場合は怪我の度合いによって刑罰を変えろ。嫌な仕事はたくさんあるだろ」

「はははっ」


 力なく笑うトレン。

 トレーニングする時間を少しは議員らしい仕事に割り振ればいいんだ。


 頭は悪くないのにな。

 なんであんなに残念なのだろう。


「レクティ、トレンを見張ってやってくれ。どうせすぐにトレーニングし始めるんだ」

「はい、ですわ。かしこまりました」

「1週間もトレーニングをさぼったら、1年は昔の実力に戻ってしまう」

「罰だからな。それぐらいじゃないと」


 1週間事務仕事はみんな嫌だったようで、喧嘩はぱったりなくなった。

 闘貨に喧嘩防止機能が付いているのに喧嘩が起こるんだからな。

 血の気が多過ぎるんだ。


 1週間事務仕事は文字を覚えたり色々といい面があるのにな。

 もっと喜んでやってほしい。

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