第332話 属国と、サバンナの国と、選挙

 首都の様子を見に2週間ぶりに帰った。

 議会に出るとイーサが演説している。


「スラカチスンル・ミチカニラミト・トチン・カクイン・シラミやカ・モニミシ・キラニミキ・シラテミ」

「ロータリ国は下についても構わないと言っている」


 リッツが翻訳した。

 ええとロータリが属国になるのか。

 これは同盟さえすれば後はなんとかなると思っているな。

 俺が反対意見を唱えて試合する展開は上手くない。

 9割以上のディッブ人戦士が賛成しているからだ。

 今後動きづらくなるのもちょっと困る。


「カクニト・モチカカイス・クチト・コイイミ・チソソイセカイシ」


 銅鑼が鳴らされた。

 どうやら承認されたようだ。

 だがスライダー国に攻め込むという議案が提出されたら、妨害することにしよう。

 ジェフトに通信の魔道具を渡した。


 そう簡単には戦争にならないだろう。

 ディッブ人も馬鹿じゃないと思いたい。


 宴会の席で、ロータリ商人が貢物をもってきた。

 ロータリはスライダーを滅ぼせばディッブは容易いとみているんだな。

 だから、属国として同盟しても平気だ。


 動き出すまではしばらく掛かるはずだ。

 だが、はたしてロータリにディッブ人の手綱が握れるかな。

 属国としての同盟では命令や要請は出来ない。

 出来るのはお願いぐらいだ。


 賄賂で動くとは考えられないんだよな。

 そんなことよりサバンナの国の方が気にかかる。

 こっちの勢力が育てば、首都の戦士は出兵できなくなる。


 なぜかというと火事場泥棒されるからだ。

 帰ってきたら首都が敵の手に落ちているという展開は好ましくない。

 それぐらいの計算はするはずだ。


 サバンナに3つは国がほしいな。

 そのぐらいになると政治が複雑になって、よっぼとの理由がない限り、一致団結して戦争という方向には進まなくなる。


 サバンナの国へ帰ると、問題が山済みだ。

 トレンは頭を抱えている。

 そのひとつは戦士の階級がないのが不満らしい。


 強くなった奴は地位を求めたいようだ。

 だが、民主主義に人間としての階級は不要。

 なので、軍隊として階級を作ることにした。

 戦士は少佐、中佐、大佐。

 政治家は少将、中将、大将をやる。

 戦士は政治家の下だ。


 クーデターとかになったら、闘貨の停止コードで弱くする。

 だから安全だ。


「少佐がモチマラス、中佐がリニイナカイミチミカ・ソラリラミイリ、大佐がソラリラミイリか。私もソラリラミイリを目指して頑張る」

「トレンは既に決まっている。大将だ。リッツ適当に翻訳してくれ」

「ええとキイミイスチリかな」

「名誉職は嫌だ。名誉戦士は笑われ者なんだぞ」


「総司令官は一番偉いのに」

「嫌なものは嫌なんだ」

「仕方ないな。頑張って大佐になれ」

「ああ、任せろ」


 議員の選挙をやることにした。

 まあ結果は議員になったのは強い奴が大半だ。

 だが、性格の悪い奴は落選してる。

 これだけでも選挙の意味はある。


 女性議員が3割もいるのに驚いた。

 女性票がそっちに流れたな。

 誰がどの候補に投票したのか分からない仕組みにしたのも良い。

 選挙管理委員はもちろん魔道具を通して分かっているが、魔道具の中身は覗けない。

 魔道具の中身は投票者の神秘魔法名を登録。

 2回投票すると警報が出る仕組みだ。


 投票も魔道具だ。

 ホログラフィのボタンにタッチすると投票される。

 集計もあっと言う間だ。


 これで問題がふたつ片付いた。


 みっつ目の問題は、識字率だ。

 選挙はマークを作って貰ったから、字が分からなくても問題なかった。

 だがこれからは違う。


 首都の戦士階級は文字を知っている。

 だがこの国へ来ている首都の戦士は少ない。


 議員にも文字を読み書きできない奴が半数近くいる。

 ゆゆしき事態だ。

 俺はミカカ語なんか教えられないぞ。


 そう思ったら、リッツがカルタを作った。

 器用な奴だ。


「リッツでかした」

「学園でね。ミカカ語のカルタは作ったんだよ」

「単語帳とかそういうものは作るよな。だけどカルタはな」

「絵を描くのがめんどくさいでしょ。でも複写の魔法があれば一発だ」


 次の問題は貨幣だ。

 ディッブの首都とは別の絵柄の貨幣ができる魔道具を渡した。

 石のお金と鉄のお金だが、食料品の売り買いだとこんな物で用が足りる。


「女の数が足りない」


 トレンが問題点を持ち込んで来た。


「戦いで死ぬのは主に男だろ。女性の方が数が多いんじゃないか」

「ええ、でも男一人に対して4人も妻がいると足りなる」

「議会に婚姻の法律を提案しろ。今後は妻の数を3人までにするとかだ」

「議員は男のほうが多いので否決される」


「女性の方が多いんだから、女性に有利な法案をバンバン提案して、こじれたら解散すると良い。きっと女性は女の味方をしてくれる議員に投票するはずだ。それをほのめかせば良い。ちょっと頭の回る奴だったら、上手く立ち回るさ」

「妻の数が多いと女に損だと思わせればいいわけか」

「上手く噂を流して世論を味方につけるんだよ」

「なるほど」


 まったく、嫌になるほど問題点が多い。

 国をひとつ作るのだから、これでも少ないほうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る