第334話 加速と、チューニングと、女社会

 アダマンタイト、ミスリル、オリハルコンの総称は魔導金属にした。

 ディッブで作れるのは鉄だけだから、アダマンタイトが主な輸出品になるだろう。

 魔導金属は魔闘術との相性が良い。

 魔闘術で更に強化したりも出来るからだ。


 俺は鉄の短剣を作って、トレンに渡し、アダマンタイトにしてもらった。


「貸してみて」


 マイラが興味を示した。

 鉄のハイプを地面に突き刺しマイラが構える。


「はあああぁ」


 気合一閃、見事鉄パイプは両断された。


「お見事」

「前に作った。アダマンタイトとミスリルとオリハルコンの硬貨があったよね。投げて」

「じゃあいくよ」


 俺がみっつの硬貨を投げたところ、マイラは短剣を素早く三度走らせた。

 寸断される硬貨。


「凄い切れ味だな」

「まあね。流れが分かれば強化も容易いから。要するに独楽に鞭打って回転を早くするって奴よ。ロスが激しいからトレンにまた魔力を込めて貰わないとだけど」


 マイラならではの技だな。

 魔導金属の中の流れが見えるから、突いて流れを加速することができるんだな。

 ディップ人も加速は出来るだろうけど、たぶんマイラほどではないはず。


 ここに滞在中にアダマンタイトの短剣を量産しておこう。

 マイラの助けになるはずだ。


 トレンはと言うと面白がって、色々な武器を作り出していた。

 とげ肩パットなんてのもある。

 それは魔戦士と被るな。

 もっともこれはアマダンタイトだから、鋼鉄より凶悪だが。


 意外だったのは、投げナイフの類が受けたことだ。

 ディッブ人の遠距離攻撃と言えば投石らしい。

 でもディッブ人に掛かると石は脆いから、アマダンタイトの投げナイフは重宝された。


 壊れない投擲武器はとても良いそうだ。

 今まで石の投擲は目潰し代わりらしい。

 試合では卑怯になるのであまり使われないが、モンスター相手の狩りでは使うようだ。


 壊れない投げナイフはモンスター相手の遠距離攻撃に威力を発揮した。

 でも、いくら硬くてもバリアは突破出来ないんだよな。

 オリハルコンの投げナイフならバリアも突破できるが、金貨100枚ぐらいの物を投げるのは、前世でのミサイル並みにコスパが悪い。

 それに投げると相手にオリハルコンを与えてしまう。

 爆発する魔導金属があれば最強かも知れない。

 鉛とか錫とか銅とか色々と試したいところだ。

 トレン辺りは既に試していそうだけどな。


 まあいいや。

 トレンが開発した技だ。

 どのように使おうが俺が口を挟む資格もないし、ディッブ人が集団戦闘を覚えるまでは問題はない。


 それにディッブ人が強くならないと国のバランスが取れない。

 今はスライダー、ロータリ、ディッブの順だからな。


「魔導金属は駄目かも知れない」


 トレンがそう言って来た。


「何で?」

「魔闘術と併用すると反発して弱くなる事例が多数あった」

「なんとなく分かる。流れの波長みたいなのが合わないんだな」

「ぴったりくる奴はぴったりくるのだけど」

「個人に合わせてチューニングが必要ってことだな。マイラなら出来そうだが、吹っ掛けそうだ。輸出品としては1級品だから今のままでもいいかもな」

「ディッブに鍛冶師の国になれというのか!」


 トレンが気色ばむ。

 俺個人としてはそっちの方が良いけどな。


「とにかく、チューニングはマイラしか出来ないと思う。ということは交易だな。定期的に王都まで来てもらわないとな」

「それは、別に良いが。これではディッブが属国になる未来しか見えない」

「すぐ思いつく解決策としては、トレン以外の人物に魔導金属を作らせることだな。たぶん作る人によって波長が変わる。ぴったりした人を見つけるのは大変だが、そうやっていくしかない」

「そんなことなら、お安い御用だ。女の方が数が多いから、色んな波長が揃うだろう」


「トレンは自分の作った魔導金属との相性はどうなんだ?」

「最上じゃないが、そこそこ使えるな」

「自分の場合に相性が悪いわけはないか。じゃあ女は解決だな。自分で武器を作れば良い」

「男がますます軽蔑しそうだ」


「断言しよう。ディッブは女社会になる。魔導金属を抑えている限りはな」

「そうだろうか」


 ディッブがどのように変化を迎えるか分からないが、女性の権利は強くなる。

 外貨獲得手段を持って、しかも作れば作るほど奥義を覚えて、強くなるんだろ。

 これで女社会にならない方がおかしい。


 この変化が良い方向に向くと良いのだが。

 時代の波の引き戻しがくるかもな。

 男対女の戦いが始まるかも知れない。

 魔導金属と奥義で今のところは5分かな。

 何にせよ俺はトレンの味方だ。

 トレンは話の分かる奴だから大事にしたい。

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