第58話 戦いと、研究書類と、笑顔

 サージの部屋の扉を身体能力の魔法にものをいわせて蹴破った。


「何だ。俺を誰だと思ってる」

「うるさい黙れ! マイラをどこにやった?」

「知らん」

「じゃリニアはどうなんだ。目撃者もいるぞ」

「ふん、そんな事か」


 俺はその言葉を聞いた瞬間サージに蹴りを放っていた。

 サージはそれを受け止めた。


「たわいない。身体強化ごときでいい気になっては困る【太陽火球】」

「【バリア最大】」


 火球はバリアで受け止められた。


「素晴らしいね。君を叩きのめし拷問して、その魔法を頂くとしよう」

「今度はこちらの番だ。【大電撃】」


 部屋一杯に電撃が満ちる。

 光で埋め尽くされ俺は目を瞑った。

 再び目を開くと、ボロボロの服を着た無傷のサージが立っていた。


「回復があるのを忘れたかね。君の論文のループを使えば、ほぼ無敵だ」

「ならば魔力が無くなるまでやるまでだ。【大電撃】【大電撃】【大電撃】【大電撃】」

「ぐあぁぁ、こんな馬鹿な。なんて魔力量だ。素晴らしいぞ。君を実験体にしたい。ぐあぁぁ」


 目を開くとサージは灰になっていた。

 おいおい、全て喋ってから死ねよ。


 サージの灰に向かって嘘判別魔法を掛ける。

 おや、反応があるぞ。

 マイラをさらったかの問いはノー。

 こいつが犯人じゃないのか。


 リニアをさらったかの問いはイエス。

 イエスとノーだけだと場所は聞けないな。


 リニアを殺したかの問いはノー。

 どこかに送ったはイエス。

 どこに送ったんだよ。


 ええい、まだるっこしい。

 家探しだ。

 奥の部屋にダイヤル式の金庫がある。

 数字ならイエスノーでなんとかなる。


 時間が掛かったが金庫は開いた。

 中に研究書類が。

 ええと人工魔王化計画だって。

 そんな事をやってたのか。

 人体実験は人工魔王化計画の為だろう。


 連続殺人犯はお前かの問いにサージの灰は答えない。

 他の質問もしてみたが、どうやら時間切れのようだ。


 俺はランシェに通信魔法を使った。


 しばらくして、ランシェと何人もの兵士が来た。


「でかした。これで魔導師を何人か処刑台に送れる」

「そんな事より、誘拐されたマイラがどこに行ったのかが知りたい」

「慌てるでない。手分けすれば早い」


 兵士達が書類を精査し始めた。

 待つ時間が永遠にも感じる。


 俺はイライラと貧乏ゆすりを始めた。


「見つけたぞ。たぶんここだろう」


 ランシェが一枚の書類を突き出して、俺に向かってそう言った。

 書類を見ると研究所の名前が書いてあった


「研究所か。これはどこにあるんだ?」

「待て、いま地図を描く。ここは前からマークしていたのだ」


 地図を描く時間がとてつもなく遅く感じる。

 早く、早く。

 書きあがったようだ。


「俺一人で行かせてほしい」

「危険であるぞ」

「そんな事は分かってる」


「であるか。ならばしかたあるまい。吉報を待つとしよう」


 身体強化を掛けて研究所に向かって走る。

 今日は走ってばかりだ。

 いいかげん足が痛い。

 痛いがもうひと頑張りだ。


 表通りを爆走して、路地に入る。

 家の壁に当たって酷い擦過傷が出来る。


 無限回復の魔道具を起動。

 傷が治る。

 傷を負う度に痛みが走る。


 こんな痛みに負けるものか。

 間に合ってくれ。

 すがるような思いで爆走する。


 おっと、幼児が出て来た。

 急ブレーキを掛ける。


「ごめん急いでいるんだ。どいてくれ」

「急ぐと危ないよ」

「そうだね。じゃ、ばいばい」

「ばいばい」


 幼児を優しくどかし、手を振った。

 にっこりと笑う幼児。


 マイラの笑っている顔が脳裏に浮かんだ。

 その笑顔を守るんだ。


 マイラ、マイラ、マイラー。

 俺はこんなにもマイラを愛していたと気づいた。

 死ぬなよマイラ。


 そして遂に研究所に到着した。

 門に手を掛け深呼吸する。

 軽く鉄のパイプで出来た門を押すとそれは簡単に開いた。

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