第232話 一騎当千と、検証と、勢力図

 空を飛んで王宮に急ぐ。

 商店街の略奪が酷い。

 見ないふりしたりはしない。


「マイラ、リニア、やっておしまい」

「がってんで」

「言われなくても」


 マイラとリニアが浮遊する板から飛び降りる。

 マイラの姿が消えた。


 略奪を働く男達の足から血が噴き出る。

 おお、凄いな。

 瞬く間に男達が無力化された。

 リニアは喧嘩を売って来た男達を伸している。


 一騎当千て言うのは彼女達の事を言うんだろうな。


「【石】。やった、体の中に石を召喚出来た」


 セレンがそう言って喜んだ。

 女性の店員に掴みかかった男がどさりと倒れた。


 魔力の召喚は出来るけども、体内に召喚するかな。

 それで石を送り込むなんて、やばい能力だ。


 俺もやってみよう。

 メテオ魔法を弄ってやってみる。

 ありゃ駄目だ。

 セレンみたいに上手くいかない。

 特殊能力には勝てないらしい。


 俺は自動迎撃の魔道具を商店街の人達に配った。

 これで客も入ってこれないが、暴漢も入ってこれないだろう。

 一応威力は殴られたぐらいにしておいた。

 無関係の人がきたら、ごめんなさいだ。


 王都中の店を守る訳にはいかない。

 自動迎撃の魔道具をただで放出すべきだろうな。

 1万個作れば良いか。

 マイラとリニアが暴れている間、3人で魔道具を作る。

 商店街の人達に配布するように言って別れた。


 女性が襲われている。

 マイラとリニアが助けに入ろうとすると盗賊風の男達が100人ぐらい現れた。


「見つけた。タイトの女だ。タイトは近くにいるはずだ。探せ」


 透明腕の一団か。

 マイラとリニアが無双し始める。

 セレンも石を体の中に召喚して、活躍した。


 ほどなくして、全員が死んだ。


「セレン、マシュマロを私の胃の中に召喚してみて」


 マイラがそんな事を言い始めた。


「マイラ、危険だよ」


 俺はマイラを止めた。


「じゃあ、この棒の中に召喚してみて」


 マイラが近くにあった棒を手に取る。


「【石】、えっ外れた」


 マイラが棒を動かしたので外れたのだろう。

 セレンの石を放り込む魔法は、動いていると駄目なようだ。


「やっぱりね。なんと言うのかヒモみたいなのが分かる。それの先に石が生まれるのね」

「何もこんな所で能力の検証しなくても」


「タイトは黙って! 味方の攻撃が当たる可能性も考えないといけないのよ。じっさい危なかったわ」

「ごめん。動いていると距離感が掴めなくて」


 セレンのこの魔法は銃で撃つような物なんだな。

 乱戦の中で撃たれたら、そりゃ堪らないか。


 マイラの怒りも分かる。


「セレン、とりあえずその魔法は辞めておけ」

「うん」


 マイラの能力は流れなら何でも分かるんだな。

 最強かも知れない。

 たぶんマイラに勝つにはゴリ押ししかないのだろうな。

 マイラはリニアとは相性が悪そうだ。


 セレンはマイラに歯が立たないと思う。

 ただ、メテオを逃げられない範囲で発動させれば、勝てるかもしれないが、その時はマイラはセレンの息の根を止めているだろう。

 俺の魔力振動能力もマイラには通用しないな。

 事実タンタルは、必滅矢をマイラに当てられなかった。


 プログラム的魔法でゴリ押しすれば勝てるけどね。


「婚約者同士の勢力図が変わりましたね」


 レクティがそう漏らす。

 そういうのは勘弁してほしい。


「レクティは冷静だな」

「力を誇示するのは弱い者のする事です。それに切り札は隠しておきませんと」


 レクティは何か切り札を隠していそうだ。

 ここぞという時でないと使わないんだろうな。


 女の子が武力で競うというのは何か違う気がしないでもない。

 でも家で大人しくしとけと言うのも違う気がする。


 マイラは歳をとったら、表向きは淑女で、有事の際は敵に笑って致命的な一撃を加えそうな気がする。

 レクティはそういうのを表に出さないだろう。

 全て裏で片付けそうだ。


 リニアは逆に派手に暴れまわるだろうな。

 大人しくなる未来が思い浮かばない。


 セレンは平凡から少し逸脱したが、平凡感は拭えない。

 普通にやって普通に優秀な結果を残すだろう。


「まあなんだ。みんな仲良くな」

「タイトはたまにおっさん臭い」


 セレンに突っ込まれてしまった。


「この安定した所がタイトの魅力なの。お子様には分からないのね」

「マイラが婚約者では最年少でしょうが」


 レクティとリニアが頷く。

 マイラが憎まれ口を叩くのはいつもの事だ。

 育ちが、悪いからな。

 きっとそういう事を言って肩ひじ張って生きてきたんだな。


 他のみんなも分かっているらしい。

 俺は浮遊する板を学園に向けた。

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