第276話 ダンスパーティと、平常運転と、何事も起こらず

 今日はダンスパーティ。

 ダンスパーティは事件の予感しかない。

 俺も馬鹿じゃないから、警備を増やすようにランシェに言った。

 打てる手としてはこんなものだろう。


 『タイト・マイラ結婚記念ホール』でパーティは行われた。

 マイラの手を取ってダンスする。

 次はセレンだ。

 レクティ、リニアと踊ってまたマイラに戻る。


 これはきつい。

 リッツはソレノと踊った後にトレンと踊っている。


 ベークはラチェッタと1回、踊ったきりだ。

 ベスとコネクタは、いやいや兄妹で踊っている。

 すれ違った時に怨嗟のつぶやきが聞こえた。


 文句言う前に恋人を作れば良いんだよ。

 ベスとコネクタは別のパートナーを探しにいったようだ。

 その後に踊った気配がないので撃沈したんだろう。


 婚約者がいると、別の人間と踊ると醜聞が立ったりする。

 そこまで考えたりしなくても良いのに。

 事実、社交界では色々な人と踊ったりする。

 まあ、思春期は色々とあるのだろうな。

 婚約してない人が踊ると婚約説が流れるのもどうかと思う。


 学生はその手の話が好きで、学園中に噂がすぐ広まるのがいけないのだろうが、こういうのが青春なんだろうと思う。

 俺は婚約者以外とは踊らない。

 マイラが喧嘩しそうだからだ。


「タイト、しんどそう」


 マイラがダンスしながら俺を気遣った。


「そう思うなら、周回を止めろよ」

「だって、タイトがフリーになると虫が寄って来るから」


「もう限界だ。お話タイムにしよう」

「終わりまで踊らないのは不作法よ」

「でもスラムの人間は法なんて気にしないだろう」

「うん、法は破るためにある。スラムの鉄則」


 俺とマイラはダンスを中断して、他の婚約者を探した。


「タイトぅ、ラチェッタがもう踊らないんだって」


 ベークが半泣きでそう言った。


「足でも踏んだか」

「たくさん踏まれた。ラチェッタが練習してからじゃないと踊らないって。僕で練習してよ、踏まれるのが好きなんだって言ったら引かれた」

「それは誤解を与える言い方だぞ」

「僕を踏んでいいのはラチェッタだけだ」

「さらに墓穴を掘るとは」

「ラチェッタに踏まれると喜びが満ちるんだ」

「それ以上言うと完全に変態だ」


「じゃあどう言えば良いんだ」

「さらっと、僕を贈り物の人形だと思ってダンスしてくれないかとか言えば良い。足を踏まれて何か言われたら、人形は痛みなど感じないとでも言っておけ」

「分かったそうする」


 世話の焼ける奴だ。


 リッツと会った。


「ダンスに誘う時はトクチリリ・テイ・シチミソイめと言うらしいぜ」

「なんちゃらミカカ語ね。通訳、期待しているぞ」

「へっ、通訳って?」

「使節団の通訳だよ。トレンの国に行くんだ」

「行く行く! それ何時?」

「来年だ。楽しみにしておけ」


 レクティを見つけた。

 男に絡まれている。


「俺の婚約者が何か?」

「ダンスに誘っただけですよ。構わないでしょう」

「まあな。でも学園の風潮としては好ましくない」

「では退散します」


 男は去って行った。


「嫉妬したのですか?」

「迷惑そうだったから追い払っただけだ」

「あの方の魂胆みえみえでしたけどね。あの方のお父様は商会をやっていて、オルタネイトのおこぼれが欲しかったのですわ」

「邪魔だったか」

「いいえ、美麗字句にも飽きてきたところです」

「マイラの所に戻ろう」

「ええ」


 途中セレンと出会った。


「私、魅力が無いんでしょうか。誰も声を掛けません。女の子には声を掛けられたんですけど、ちょっとショックです」


 セレンの奴、暇つぶしに遊んでたな。


「心臓に物を送り込む技の練習をしただろう?」

「何で分かったの」

「そんな事だと思ったよ。命を握られるとなんか感じるんだよ」

「動いている的だと思って練習してました。魔法は発動してません。パスをつなぐだけですよ」

「男限定でね」

「ええ」


 リニアも見つけた。

 女の子に囲まれている。

 サイリスの話をしているようだ。

 犬好きの集まりだな。


 リニアは放っておこう。

 マイラの元に戻ると、話題は魔戦士の話に。


「ダンスパーティに仕掛けてくると思ったんだけどな」

「わざと警備を薄くしておけば、良かったんじゃないの」

「罠ですね。そそる戦法ですわ」


 まったく血の気が多いったらないな。


「皆さんの楽しみをぶち壊せませんから」


 標的の練習してた奴が何言っているんだと思わないでもない。

 警備を厳しくした甲斐あってか、何事もなく終わった。

 平和で何よりだ。

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