第275話 骨と、ペアルックと、共有
「ほら、取ってこい」
俺は運動場で骨を投げた。
サイリスが夢中で追いかける。
空中で見事キャッチ。
ちゃんとリニアの元に持ってきた。
「サイリス、おあがり」
リニアがそう言うと、サイリスは骨をバリバリと齧った。
さすがのモンスターだ。
歯の鋭さと顎の力が尋常じゃない。
みんなでサイリスに骨をあげる。
マイラはサイリスと追いかけっこしたりした。
マイラがちょこまかと動くので、サイリスが徐々に興奮。
大丈夫かこれ。
最後にはマイラがサイリスの後ろから抱きつき耳を握った。
「キャイン」
「マイラ、サイリスを虐めないで」
咎めるようなリニアの声。
「虐めてないわよ。ちょっとした戯れじゃない」
「どうだか」
「喉が渇きましたでしょう」
レクティが皿に水を入れる。
水を飲むサイリスの頭を撫でた。
セレンは恐る恐る肉を置いている。
「タイト、新しい魔法を作ってくれ」
ベークがやって来てそんな事を言った。
団らんのひと時を邪魔しやがって無粋な奴だな。
「何を持ってきた?」
「今回は自信がある。ペアルックTシャツだ」
マイラの目が光を帯びた。
欲しいんだな。
仕方ない。
「それでどんな魔法が欲しい」
「飛ぶ板の魔法があっただろ。あれが欲しい。色々と改良してレースがしたい」
「そういう目的なら良いだろう」
それにしても贈り物の選択が的確だ。
誰の考えだ。
「タイト、着替えてくる」
マイラはそう言うと、ペアルックのTシャツの男物を俺に押し付けて消えた。
そんなに急がなくても。
俺にも着替えろって、ことだろうな。
運動場の男子更衣室で着替えた。
ピンクの地に胸にはでかでかと『愛』と青で書いてある。
さっきみたがマイラのは赤だ。
物凄く恥ずかしいのだが。
『愛』っていうと戦国武将の兜でそんなのがあったような。
これは戦国武将の前立て、断じてペアルックじゃない。
そんなこと思えるかぁ!
着替えて帰ると、マイラは既に戻ってた。
誇らしげに胸を張るマイラ。
「ベーク、3人にもペアルックのTシャツを作ってやれ」
「文字はどうする?」
「恥ずかしいのは辞めてくれ」
「わたくし、『縁』がいいですわ」
『縁』なら恥ずかしくないな。
「『激』がいいかな」
リニアは『激』と。
「『心』にして」
セレンは『心』か。
みんな無難だな。
外人が好きそうな絵柄だけどな。
「それにしても、ベークはどこでTシャツを仕入れたんだ」
「ベーク・アンド・リッツで店員用にお揃いのを作る事になったんだ。ただで何種類かサンプルを作ってくれるというので、作ってもらった」
うん、待てよ。
レクティは店の事ならなんでも知ってそうだ。
Tシャツの事も知ってたのに違いない。
もしかしてレクティの策か。
「レクティとのペアルックの配色はどんな感じだ?」
「黒地に白の文字」
やっぱりな。
ベークとレクティは前もって打ち合わせしてある。
黒地はレクティが好みそうだ。
待てよ。
俺とマイラの奴をピンク地にしたのは、俺が着づらくするためか。
着る回数を減らしたかったのか。
マイラは好きそうだが、ピンクは恥ずかしいものな。
好みを把握しているこのそつなさはレクティの仕込みだな。
考え過ぎか。
いや、レクティならあり得る。
「レクティの仕込みなんだろ」
俺はレクティに耳打ちした。
「ばれてしまいましたか」
「まあな。ベークには望めないそつなさだ」
「そこ、いちゃいちゃしない」
「ちょっとした秘密の打ち合わせですわ」
「きー。ベーク、Tシャツの着替えを作って。金に糸目はつけないわ」
「仕事ならやるけど」
レクティが嬉しそうだ。
シャツを作る工房はオルタネイトの傘下なんだろうな。
マイラなら絹のシャツとか平気で作りそうだ。
「よしよし」
俺はサイリスをわしゃわしゃ撫でた。
そして骨を取り出して投げた。
とうぶんペアルックを着せられるんだろうな。
下に着るなら関係ない。
割り切りたくはないが割り切った。
「どうせなら、サイリスとエレクに着せる分も作ってやろう」
サイリスとエレクもこの恥ずかしさを共有してもらう。
「いいけど金は貰うよ。動物のは特注だから、凄く高くなるけど良いの」
「良いんだよ。ついでにベークとラチェッタの分も作れ。リッツとソレノの分と、コネクタとベスの分もな」
みんな恥ずかしさを味あうがいい。
ベークは嬉しそうだな。
こいつ変態か。
ペアルックで嬉しがる奴の気が知れん。
マイラが気に入っているから、言葉には出さないけどな。
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