第411話 集団就職と、大目的と、スタンガン

 それから、門番に集団就職で田舎から出て来たと言おう。


 これしかないな。

 リニアとセレンが御者台に座り、馬車を動かす。

 ほどなくして、城壁に囲まれた街が見えた。

 うまく門番を騙せるだろうか。


 ここからは徒歩で進む。

 審査待ちの列ができていたので並んだ。

 しばらく待たされて俺達の番になった。


「身分証明」

「ありません。俺達は田舎から集団就職するために出てきました」


 門番から胡散臭さげな視線でじろじろと見られた。


「村長が発行してくれなかったのか?」

「村長や文字の書ける人が病で死んでしまって」

「それにしても良い服着てるな」

「ええ、村長宅から拝借しました」

「盗んだんじゃないだろうな」

「村長の親戚も了解してくれたので」

「そうか。足税は払えるか? 一人銅貨4枚だ」

「4×11で44枚ですね。となると大銅貨4枚と銅貨4枚」

「賢いな。文字は書けないのに計算ができるのか」


 不味った疑いを持たれそうだ。


「農民は書く必要はないですが、物の売り買いは必要です。騙されないためにもね」

「それもそうか。野菜を売りに来る農民もここを通るが、やつらも文字は書けないが数は数えられる」

「ですよね」


 疑いが晴れたようだ。


「通っていいぞ」


 足税を払うと俺達は無事に街に入れた。

 街はどこも同じだな。

 露店があったり、人の行き来があり、大道芸人がいる。


 みんな、よだれを垂らしそうな顔してる。

 特にリニアが食べ物を奪いそうな目だ。


「少し腹を満たそう」


 みんな笑顔を見せた。


「串肉を11本くれ」

「はいよ」


「人さらいの話を聞いたんだが」


 串肉を配ってから、露店の店主に話し掛けた。


「そりゃ、街の外の話だ。街の中でそんな話は聞かないな。いいや、スラムだとさらわれている奴がいるかもな。スラムには近づかないことだ」

「役人は人さらいを捕まえたりしないのか」

「ああ、噂だが、領主とグルらしい」


 やっぱりそうか。

 これは不味い展開だ。

 俺達の顔を人さらい達は知っている。

 馬車の奴らを殺した死体も捨てただけだから、すぐに見つかるだろう。

 復讐に来る可能性が大だ。


 魔法を何とかしないとな。


「近代魔法ってのがあるらしいが、どこで覚えられる?」

「魔法使いになりたいなら、弟子になるか。学園に入るかだな」


 弟子入りと学園入学の2択か。

 金があれば本とかでも良いな。

 幸い文字は読み書きできる。

 露店の値札が読めるからな。


「なあ、どうするべきかな」

「ゲートまで辿り着くのを目標とすべきですわ」


 とレクティ。


「蜘蛛女の言う通りね。でもそれには足りないものだらけ」


 とマイラ。


「とりあえず馬車に乗ってた私達以外の6人を返しましょう」


 とセレン。


「そうね。戦力アップと並行してそれをするべきよ」


 リニアが締めくくった。

 俺も同意見だ。


「とりあえずはそれで行くか。冒険者ギルドに行こう。おっちゃん、冒険者ギルドはどこ?」

「この道を真っ直ぐ行くと広場がある。さらに少し進むと冒険者ギルドだ。剣の看板が掛かっているからすぐに判る」

「ありがと」


 露店から広場を目指す。

 不思議に思ったのは、モンスターの肉とか毛皮とかを売ってないことだ。


「モンスターの素材の物が売られてないけどなんで」


 一緒に捕まってた男の子に聞いた。


「モンスターを倒すと、魔石以外溶けてなくなるんだ」

「へぇ」


 やっぱりゲームだな。

 違う法則のゲーム世界。

 文字が一緒なのがまた作為を感じる。


 広場が見えて来た。

 広場では大道芸人が芸を披露している。

 チラシを配っている人もいる。


 魔道具の露店商を見つけた。

 魔道具は高いな。

 一番安い魔道具で串肉10本分だ。


 魔石の値段もあるからなんだろうけど。

 教えて貰った通りに更に進む。


 やがて剣の看板が見えて来た。

 冒険者と思わしき武装した人物が出入りしてる。


 子供の冒険者はいない。

 入って大丈夫だろうか。

 だが、まずは出来るだけの人数を元の場所に返したい。


 なんとかなると思いたい。

 まさか女子供に暴力を振るったりしないだろう。

 非殺傷用の魔法を作るか。



for i in range(0,10,1): # 10回ループ

  print("【電撃を発生させよ】")


 こんなので良い。

 『スタンガン.py』というファイルにした。


 レクティからの魔力供給がないと10回が最大だ。

 このあたりもどうにかしたい。

 今後の課題だ。

 よし、入ろう。

 意を決して冒険者ギルドに踏み込んだ。

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