第412話 冒険者ギルドと、絡まれると、世界の名前

 冒険者ギルドは前の世界とつくりがほとんど変わりない。

 おなじみのカウンターに依頼が貼ってある掲示板。

 それに併設されている酒場だ。


 俺達がぞろぞろ入ると、冒険者に注目を浴びた。

 女子供が集団でどんな用だと言わんばかりだ。


 依頼窓口に行くと、受付嬢ににっこりと微笑まれた。

 脇腹をマイラにつねられる。

 鼻の下なんて伸ばしてないよ。


 俺ってもてる顔らしいからな。

 腐っても貴族の血って奴だ。

 それに13歳だからまだ子供だ。

 お姉さんも微笑ましく思っているはずだ。


「護衛をお願いしたい」

「坊やお金はあるの。高いわよ」

「お金のある分だけで雇うつもり」

「どこまで」

「ええと、エイサック村と、ビータイ村と、シーラウンヌ村。この3つを頼みたい」

「エイサック村は大銀貨8枚ね、ビータイ村は金貨1枚と銀貨3枚」

「ああ、シーラウンヌ村は駄目みたい。最初の二つをお願い」


 なんとか2人親元に返すことができた。

 ちなみに返す順番をどうやって決めたかと言えば、年齢の小さい順だ。


 さて、これから大変だぞ。


 4人分の護衛代を稼がないと。


「これからどうする?」


 俺は残った4人に聞いてみた。


「護衛代が貯まるまで働くよ。もう弟子入りする年齢だからね。俺はアリウム」


 アリウムはどこにでいる普通の少年だ。

 12歳だと言っていた。

 強いのは村で過ごしていたからか。

 貧しい村は命が軽い。


「私も働く。エリカよ」


 エリカは14歳。

 御針子で、刺繍した服を着てて自慢げにこれ私が作ったのよと言った。


「私も働かないといけないみたいね、カリン」


 カリンはおさげの13歳。

 薬師見習いだと言った。

 体からはハーブみたいな良い匂いがしてる。

 薬草摘みに村から出てさらわれたらしい。


「何とかするしかないか。コキアよ」


 コキアは家事手伝いの13歳。

 手に職はないけど、料理と掃除は得意と言ってた。

 4人とも大丈夫なようだ。

 中世の世界観だとこのぐらいの年齢はほぼ大人だ。


 奴隷にされたら売春宿に売られていたんだろうな。

 そういうのも昔っぽい。


「じゃあここでお別れだけど何かあったらギルドに伝言して。お姉さん言伝って出来る」

「ギルド員以外は、一回銅貨3枚ね」

「じゃあそういう事で」


 俺は持っているお金のほとんどを4人に渡して、別れた。


「おい、坊主。金回りが良さそうだな。酒代をちょっと出してもらえねぇか」


 こういう輩がいるのはどこも一緒だな。


「一昨日来な」

「そう邪険にするなよ」

「しつこいと痛い目を見るよ」

「ふん、やってみろ」

「【Pythonパイソン スタンガン.py】」


 俺はバチバチいう電撃を飛ばした。


「痛っ。この野郎やりやがったな」


 マイラが男の死角に潜り込んで手刀を男の腹に当てた。


「イクリ、そこまでにしとけ。そのお嬢さんの手がナイフだったら、今頃臓物をぶちまけているところだ」

「けっ、いつの間に」

「よく見ろ。そこのお嬢さんが持っている瓶はきっと毒だぜ」

「くっ、分かったよ」


 男はやれやれと首を振って、酒場に戻った。


「ありがと」


 俺は男を諫めた人にお礼を言った。


「礼には及ばないさ。坊主は魔法使いだろう」

「まあね」

「なら、イクリを殺すのは造作もないはずだ。そうなると俺も戦わなきゃならない。だが坊主とやって勝つイメージが湧かないんだよな」

「そうなるかもね」

「だからさ。じゃあな。未来の大魔法使い様」


 諫めた人は手をひらひらと振って酒場に戻った。

 ウォーターカッターがあることを見抜かれてたな。

 油断がならない。


 前世、元の世界、この世界と呼び方がややこしいので名前を付ける。

 前世はアース、ファースター、セカンガルムと名付けた。


「お姉さん、冒険者登録って簡単にできる?」

「ひとり大銀貨1枚と、レベルが10以上ね」


 どっちも駄目だな。

 とうざは金稼ぎと、レベル上げにいそしまなくてはならないようだ。

 やることが多いな。

 ひとつずつ片付けよう。

 まずは今晩の宿だ。


「残りの金じゃ宿を取れるかどうか」

「良い考えがあるわ。スラムに行きましょう。私に任せておけば大丈夫」


 マイラが胸を張ってそう言った。

 他に手がないのでマイラに任せることにする。

 だけどスラムには人さらいも出るんだよな。

 気をつけないと。

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