第169話 狩りと、色々な方法と、襲撃

 夜が明けた。

 見張りが終わった後もトラブルはなかったようだ。

 死体は朝になったら、消えていた。

 仮面の奴らの仲間が回収したのだろう。


 今日は狩りだ。

 この辺りは強いモンスターが討伐されつくしているので、ゴブリンぐらいしかいない。

 ゴブリンは繁殖力が高く、安全な地ががあるとすぐに増える。

 強いモンスターの餌の役割だから、そんな物かもしれない。


 ただ、頭は良い。

 人間に襲い掛かる時は人数を集めて来る。

 道具も使う。

 弓を使うゴブリンもいるぐらいだ。

 噂では魔法を使うゴブリンがいるらしい。

 人間の言葉を喋る個体も報告されている。


 しかし、人間とは根本的に相容れない。

 やつらは作物を作る事はしないし、奪う事しか頭にない。


 それに殺した人間は食べてしまう。

 人食いなのだ。


 草食だったら、人間と共存する未来もあったと思う。

 ゴブリン殺しを躊躇ちゅうちょする人間はいない。


「そっちに行ったぞ」

「分かった【火球】」

「馬鹿! 森の中で火の魔法を使うな」

「悪い悪い」


 初めて実戦の生徒もいるようだ。

 いくら頭が良いといってもゴブリン。

 農夫と魔法使いの区別はつかないようだ。

 空手の農夫のつもりで襲い掛かってくるから、いいカモだ。


 俺達はゴブリンなど、相手にするつもりはない。

 成績の為に2、3匹殺して魔石を採って終わり。

 後は他の生徒を眺めている。


初々ういういしいね」

「初めてならこんなものだろ」

「ゴブリンて嫌ーい。芋虫みたいなんだもん。血が緑色で服に付くと落ちないの」


 リラの近くはゴブリンがなぜか寄って来ない。

 ゴブリンの野生の勘が警鐘を鳴らしているのかも知れない。


 それにして、かなりの数だな。

 ひっきりなしに現れる。

 数に押されてタコ殴りにあう生徒もいる。

 俺は助け出された生徒に完全回復の魔法を掛けてやった。

 こういうのも点数になる。


 マイラはもっぱら助け出す役割だ。

 生徒がゴブリンにたかられて、どうしようも無くなると助け出す。


 リラはノルマをこなした後は、何もしないで生徒達をボーっと見ている。


 駄目な生徒のパターンきこうだ。

 一人でいる所に5匹ものゴブリンに来られるとパニックになるならしい。

 その後のお決まりのコースは、迎撃が間に合わず殴られる。

 殴られて集中できなくて魔法が中断。

 何も出来なくなるというわけだ。


 俺なら石壁を作る。

 石壁を作ればゴブリンには破れない。

 後は頭上から攻撃すれば良い。


 余裕があるなら石壁には穴を開ける。

 穴から魔法を撃ち出す。

 もっと簡単なのは巨大な水球を出して、窒息で一網打尽だ。

 工夫が足りない。

 上手くやっている生徒は罠なんか使っている。

 ゴブリンは鼻が良いので罠にはなかなか掛からないが、足を踏み入れる場所が制限されると、それだけで戦闘が難しくなる。

 罠を回避しようともたもたしていると魔法が飛んで来るという算段だ。


 囮役を用意して、ゴブリンを仲間のところに誘導して葬っているグループもある。

 森での全力疾走ができればこういうのもありだろう。

 足場が悪い所の走りは慣れが必要だが、成功すれば効率の良い狩りだ。


 悲鳴が上がった。

 またゴブリンにたかられた生徒が出たのか。

 マイラと現場に行くと仮面の男が生徒を人質に取っていた。

 くそっ、こういう手に出たか。

 生徒ごと焼き殺すのは不味いな。

 いくら俺でもそんな無慈悲な事は出来ない。

 マイラが目配せをする。

 隙を作れと言っているような気がした。


 俺は火球を浮かべた。

 仮面の男の注意が火球にそれる。

 マイラは男の後ろに回り込んだ。

 そして短剣を閃かせる。


 男の足首と手首と首から鮮血が噴き出した。

 そしてそれが合図だったかのように次々に悲鳴が上がった。

 生徒全員が人質に取られたと思った方がいいらしい。


「マイラ、何か作戦は?」

「生徒が散らばり過ぎている。各個撃破はできるけど、全員助けられるかは微妙」


 そうだよな。

 各個撃破していくうちにはミスも起きるだろう。

 あれっ、リラは?

 リラがいないのに気づいた。

 戦闘音がする。

 俺達は戦闘音がする方向に急いだ。


 戦闘音がしてた場所に行くと仮面の男が倒れていて、生徒が震えていた。


「何があった?」

「狼の仮面を着けた人が助けてくれたんです」


 また戦闘音が聞こえた。

 リラは各個撃破するつもりらしい。

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