第392話 虫と、食事と、お好み焼き
地竜の縄張りの虫取りに同行する。
採るのは芋虫の類。
獣人が爪で樹を突いた。
そして樹に耳を当てて聞いている。
そして、鋭い爪で樹を掘り始めた。
出てきたのは30センチほどのでかい芋虫。
それ美味いのかとは聞かない。
嬉々として箱に入れている。
葉っぱに集る芋虫は器用に木に登り採取した。
これも箱の中に入れる。
箱の中は想像したくない。
地獄絵図だろうから。
そして、村へ帰り、でかい芋虫を枝に刺し焼き始めた。
匂いは美味そうだが、俺は絶対に食わないぞ。
あれを食材とは認めない。
日本でもある地域ではお蚕や、川虫を食べたりしているそうだ。
食ったら美味いのかも知れないが、どうも形がな。
切り刻んで炒め物とかに入れたら分からないかも知れないが、分かってしまったらたぶん食わないだろう。
「ひとつどうです」
焼き上がった芋虫を差し出された。
どう言おう。
こんなの人の食い物じゃないと言ったら気を悪くするな。
でも正直に言おう。
「虫は好きじゃないんだ」
「美味しいのに」
彼らの悲しそうな目。
たぶん、こんな美味い物が好きじゃないなんて、可哀想だなとか思っているに違いない。
そうだ。
俺は小麦粉を捏ねて、芋虫の形にした。
それを枝に刺して焼き始めた。
これなら食える。
良い匂いが漂った。
砂糖醤油を塗ろうかな。
ますます匂いがよくなった。
偽芋虫にかぶりつく。
クリアもこれなら食べられるようで、ぱくついてた。
「ひとつもらっても」
獣人が偽芋虫を食った。
微妙な顔つき。
小麦粉を練って焼いただけだけど素朴な味で美味いだろう。
「コクが足らないな。クリーミィな感じがないと」
よせ、虫を食ったところを想像すると飯が不味くなる。
「そうそう、噛んだ時にとろりとした甘い汁が口の中を満たすのがいいよな」
「そうそう乳を煮詰めたような味でさ」
きっとそれは生臭くて、少し苦いのだろう。
いかん想像してしまった。
俺は練った小麦粉を焼いて砂糖醤油を塗ったので十分だ。
彼らの声なんか聞こえない。
ハチの巣を採ってきた猛者がいる。
うほっ、これはまんまウジじゃないか。
まだ生きているぞ。
うねうねするところのなんて気持ち悪いことか。
獣人は石の上でハチの子を焼き始めた。
甘くて香ばしい匂いがする。
美味そうな匂いなのは認める。
だが虫だぞ。
俺は小麦粉にチーズの粉と砂糖を練り込んで、偽ハチの子を作った。
これで良いんじゃないか。
こっちはもっと美味そうな匂いだぞ。
「ひとつもらっても」
「いいぞ」
獣人が偽ハチの子を食べてやはり微妙な顔をする。
「これも美味しいですが、ハチの子に比べたら」
クリアが呆れた目で俺を見ている。
張り合う必要はないか。
ただ、俺は絶対に虫は食わん。
前世でイナゴの佃煮を食ったことはあるけど、あれは別に良いだろう。
好きじゃなかったし。
でも考えると不思議だ。
エビやカニは喜んで食うのにね。
海の生き物でも具足虫を食う気にはなれない。
エビとカニは例外なんだ。
あれは特別。
獣人が続いてもって来たのはコガネムシ。
もう好きにしてくれ。
「おう、この樹液をたっぷり吸った奴が美味いんだよな」
そうですか。
「苦みがアクセントなんだよな」
ほう。
「殻はぱりぱりして美味いし」
エビもカニも殻は食わない。
この野蛮人め。
偽コガネムシを作らない。
飴とか使ったら殻とか再現できそうだが、そこまでして張り合いたい訳じゃない。
偽ハチの子美味し。
クリアはチーズが入っているので、偽ハチの子は食わない。
もっぱら砂糖醤油の偽芋虫を食ってた。
食の好みはひとそれぞれ。
地球でも国が違うと色々な食文化がある。
否定することだけはすまい。
俺は食わないけど。
もっとも、前世で外人は生卵と納豆と味噌なんかが苦手なひとはいた。
鰹節も熱でうねるように動くと気持ち悪いっていってたっけ。
お好み焼きが食いたくなった。
ソースはないけど。
俺は小麦粉を溶いて、野菜と肉を入れて、焼き始めた。
焼けたら醤油を塗った。
ソースがあればもっと良かったのに。
それと鰹節とマヨネーズ。
クリア用のは肉抜きで作ってやった。
獣人は虫のぶつ切りを入れてお好み焼きを作り始めた。
俺はそれを食わないように目を見張って監視。
あっ、口の中に広がるクチュっていう感触。
慌てて確認すると、真っ赤な果実だった。
してやったりのクリアの顔。
くそっ悪戯に引っ掛かった。
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