第283話 ペットゲームと、バグ出しと、徹夜

 ペットゲームを覚えているだろうか。

 あれは今もバージョンアップしている。

 要素として付け加えているのはレア仕草。

 条件を満たすと、特別な仕草をとる。


 バグは物凄くあるが気にしない。

 これがバグっていても、ゲームの進行に影響は出ないからだ。


「はははっ、狼の奴発情している」


 マイラが笑い転げている。


「えっ」


 マイラが操作している魔道具を見る。

 狼型のペットがカクカクしてた。

 うわっ、お子様にはそぐわない動きだ。


 バグはあっても良いけど下ネタはやばい。

 くそっ、回収騒ぎか。


「元締め、ペットゲームで不味いバグが出た」

「虫が魔道具の中に住み着いたのか」

「まあ、そんなところ。回収したい」

「無理だ。無料バージョンアップが精々だな」

「えー」


 どうすんのこれっ。

 別にペットゲームが衰退しても構わないけど、今までバージョンアップしてきた苦労がぁ。

 いい気になっていたのか。

 プログラムにバグは付き物。

 バグ出し作業を怠った俺が悪いのか。


 おも研のメンバーでバグ出しチームが結成された。


「というわけで徹夜でゲームする。おかしな挙動したら知らせてくれ。俺は仮眠をとる」

「徹夜で作業なんてほとんどした事がなかったね。何か新鮮」

「箱を作りました。みなさんおかしな所が見つかったら、チェックシートを記入して放り込んで下さいませ。映像記録の魔道具を一緒に提出するのをお忘れなく」

「はい」


「さっそくバグ見つけた」

「お兄様やりますね」

「妹よ、いくつ見つけられるか競争だ」


 よし、寝よう。

 夜中に起こされた。

 チェックシートが38枚あった。

 意外に少ないな。

 映像記録を見て、バグの原因を推測する。


 映像記録の魔道具を作って良かった。

 これがないと説明が下手な奴に振り回されるからな。


 ええと、これは仕様と。

 バグじゃない、レア仕草の一つだ。

 これも仕様だな。

 レクティにチェックシートを持っていくと、仕様と直ったバグをまとめてくれた。

 各員が項目を読む。


「えー、おかしいよ。これって仕様なの」

「リッツ、仕様だ。バグ臭いとは俺も思った。次のバージョンアップの時は考える」


「あれっ、僕が書いた奴。再度、状況確認ってなっている」

「ベーク、チェックシートにおかしいとしか書いてないからな。どこがおかしいかぐらいは書け。そんな事だと、今日のアルバイト代を減給するぞ」

「所詮、僕の崇高な考えなんか伝わらないさ」

「ベーク、人に指示する時は的確にだ。これが出来ないと人を使う事はできないぞ。ラチェッタと魔導師を率いるんだろ。これも訓練だと思って真剣にやれ」

「ベーク様、頑張って」

「ラチェッタ、分かったよ」


 よし、寝よう。

 夜中にまた起こされた。


 うわっ、直したと思ったバグが再発してる。

 くそっ、確認したのにな。

 頻度が減っているから、あそこのプログラムが関与している事は間違いない。


 みんなの様子をみると、口数が少ない。


「あー、もう!!!」


 リニアが叫んだ。

 ゲームオーバーになったんだろ。


 デバックコマンドは作ったが、確認作業は大変だ。

 デバックコマンドというのは、裏技みたいな物で、シーンを飛ばしたり色々と出来る。

 製品版の時は削除するが、これがあってもなかなか苦労する。


 レア仕草の確認は残り4割ほどになっていた。

 半数を超えたな。


「リニアさん、静かにして下さいませ」

「やーい、怒られた」


 リニアがレクティとマイラを睨む。

 ごめん無理言った俺が悪い。

 でも一刻も早くバージョンアップしないとこのゲームが終わってしまう。

 一日延びる毎に損害が広がるんだ。


「質問して良い?」


 セレンが疑問点を書いて持って来た。

 仕様かどうかの質問だな。


「怪しいのは全部チェックシートに書いてくれ。実際に映像をみないと、何とも言えないのもあるから」

「はい」


 よし、寝よう。

 そんなこんなで、朝になる頃にはバグがほとんどなくなった。


「太陽がなんか変」


 それがバグ出しの徹夜明けというものだ。

 リニアがケタケタ笑っている。

 テンションがおかしくなったんだな。

 栄養が足りてないのか。


「みんなご苦労様。本当だったら1週間はやりたいところだ」

「げっ」


 前世ではそれぐらいやってた。

 3日目ぐらいからは無言になるんだよな。

 トイレに行って行方不明になる奴とか出てくる。

 自分の手を幽霊の手だと勘違いして、絶叫をあげた奴もいたっけ。

 足の感覚が、雲の上を歩いている様になるんだよな。


 とにかく酷かった。

 納期なんて嫌いだ。

 予定では予備日も確保してあるはずなんだが。

 不思議となくなる。


 ちなみに俺が仮眠をとったのは、プログラマーの頭がすっきりしてないと始まらないからだ。

 10分でも寝るとあら不思議、頭がさえる。

 仮眠を上手くとるのも才能だ。

 とにかく終わって良かった。


 次からはバージョンアップ版を出す前に、1週間ぐらいバグ出し期間を作ろう。

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