第230話 サンルームと、一人と、抹殺指令

 季節は7月、おも研の新入生達は模擬実戦に出発した。

 模擬実戦とは魔法を使ったサバイバルゲームもどきだ。


 俺達は行かない。

 俺は魔法でガラスの部屋を、寮の部屋に隣接して作った。

 扉を魔法で隠すのを忘れない。


 暑い夏にサンルームと思うだろ。

 そこはエアコンの魔道具をつけて部屋を冷やしてある。

 魔力の無駄遣いだが、別にいいだろう。


 サンルームでくつろいでいたら、外でマイラが叫んでた。


「どうやって入るの!」

「秘密さ」

「何で意地悪するの。このなの叩けば、壊れる」


 壊して入ろうとするとは思わなかったな。

 俺はマイラをサンルームに入れてやった。


「魔法で扉を隠すなんて反則よ」

「ですね」


 レクティも入ってきた。

 精神魔法はマイラ限定だからな。

 もっともレクティの魔力の高さだと効果がないだろう。


 あれっ、扉の姿隠しはどうなった。


「扉は隠しておいたはずだが、レクティはどうやったんだ」

「壁のそこだけ存在感がなくなっていたら、誰でも気づきます」


 穴が開いたみたいになっていたのか。

 そりゃ、気づくよな。

 もしかして、姿隠しを使って部屋でくつろいでいても気づかれない?


 マイラは駄目だ。

 空気の流れでいる事が分かる。

 結局、一人にはなれないのか。


「そうか、失敗したな」

「分かります。一人になりたいのですよね。お父様もたまにそう愚痴をこぼします」


 俺の感情を読み取ったのかレクティがそう言った。


「ええー、そうなの。言ってくれれば、いいのに」


「まあ、なんだ。隠れ家を作ってみたかったんだ」

「二人だけの隠れ家。作ってみたい」


 マイラ、俺が欲しいのは一人だけの隠れ家だ。


「パニックルームは必要ですね」


 それも違う。

 シェルターが欲しいんじやない。

 一人になりたいんだ。


「あー、3人でいちゃいちゃしてる」

「私も入れてほしい」


 結局、全員が揃うんだよな。

 やっぱり、地下室か。

 湿気なら魔法で何とかなる。

 日差しも屋根から魔法で光を曲げて取り入れるのも可能だ。


 仕方ないのでサンルームは解放した。

 リニアが特に気に入り、肌を焼いている。

 半裸でサンルームの中にいるのはやめて欲しい。

 すっかりリニアに占拠されてしまった。


 地下室を作ると絶対にばれるな。

 何か一工夫が必要だ。

 いっその事、ツリーハウスでも外に作るか。


 学園内の木に勝手に作ったら怒られるだろうな。

 許可取るとばれそうだ。


 そんな事をしなくても、空いている部室を借りて、私物を持ち込めば。

 姿隠しを使って出入りすれば、部屋の位置はばれないはず。


 秘密裏にカソードに部室を借りた。

 ソファーとか本だなとか色々な物を持ち込む。

 ふぃー、やっと一人になれた。


「タイト様、アヴァランシェ様がお待ちです」


 ダイナが俺を呼びに来た。

 何でここが分かったんだ。


「私も行く」


 マイラまで現れた。


「どうやら一大事のようですね」


 レクティが現れて言った。


「荒事なら任せなさい」


 リニアも現れた。


「みんな酷い。私だけのけ者にして」


 最後にセレンも現れた。

 みんなこの部屋を知っていたようだ。

 気を使ってくれたのかな。

 休憩は終わりだ。


 どうやら戦場が待っているらしい。

 マイラとレクティとリニアの雰囲気から、それが察せられた。


 王宮に行く途中、みんなから話を聞く。


「どういう事か説明して」

「ではわたくしが、魔導師で盗みをやっていた一派が攻めてきます。透明腕と呼ばれる一派だそうです」

「なんかザコの匂いがするな」

「ええ、やっている事は盗賊ですから。魔導師でない盗賊の手下も多数いるようです」


「補足はある?」

「奴らの狙いはタイトだよ。抹殺指令が出ている」

「マイラの密偵は優秀だな。やつらの命令を調べたのか?」

「透明腕の手下はスラムにもいるから」


「リニアは何で分かったんだ」

「私の中の野生が教えてくれたの。戦いが近いってね」


 リニアも侮れないな。

 情報を整理すると、盗聴をやってたのはこの一派で間違いないようだ。

 方針転換の理由はなんだ。

 ウィルスがばれたのかな。


 だとすれば厄介だ。


「私だけ情報がない」

「セレン、落ち込む必要はないよ。俺だって何も知らなかった」

「でもタイトは戦力が桁違いだから」


「メテオ魔法完成したんだろ」

「ええ」

「屋外なら無双できるはずだ」

「頑張る」


 セレンの機嫌が直ったところで王宮に着いた。

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