第20話 代表挨拶と、決闘と、魔導師のバック

 入学式だ。

 首席の俺は講堂の壇上に上がり挨拶を始めた。


「つつがなく新年を迎えられた事と、ここに合格できた事を皆様と喜び合いたいと思います。これから私達は魔法を学ぶ訳ですが、魔法には無限の可能性があると思います」

「じゃあ、その無限の可能性っていうのを俺に示してみろ。ニオブ・バリアブルは、タイトに首席の座を賭けて決闘を申し込む。貴族の名に於いてだ」


 会場がざわめく。

 全くニオブは俺に敵うとでも思っているのかな。

 受けて立ってやるけどもな。


「では挨拶も途中ですが、決闘を受けたいと思います」


「いいぞ」

「挨拶には飽きたところだ」

「さあ、どっちが勝つか。張った張った」

「俺はタイトに銀貨1枚」

「俺はニオブに銀貨2枚」


 賭けが始まった。

 わりと自由なんだな。

 魔法使いは変人が多いと聞いていたけど、講師や教授にも決闘を止める者はいない。


 俺達は場所を修練場に移した。


「では、双方よろしいか。これより決闘を始める。では構えて。始め!」


 審判役の講師がそう言って挙げた手を降ろした。

 ニオブは剣を抜くと物凄いスピードで突っ込んで来て、バリアに当たって、弾き飛ばされた。

 そして、ずさーっと石畳にこすりつけられ、擦り傷が出来て血まみれになる。


 うわっ痛そう。


「おのれ。へんてこな魔法を使いやがって。これでどうだ。【火球よ敵を穿て】【火球よ敵を穿て】【火球よ敵を穿て】【火球よ敵を穿て】【火球よ敵を穿て】【火球よ敵を穿て】【火球よ敵を穿て】」


 火球の魔法はバリアに受け止められた。


「今度は俺の番だ【電撃追尾】」


 短縮詠唱で30センチの電撃を放つ。


「うわー」


 ニオブは逃げ出した。

 そして背後からお尻に電撃を食らった。

 ズボンの尻の所が焼けお尻が丸出しになる。

 ニオブは気絶した。


 思ったよりダメージがないな。

 手加減したとはいえ尻が炭化するかと思ったんだが、赤くなっている以外は大丈夫だ。


「ぷぷっ」

「あれ見ろよ。情けないったらないぜ」

「あはははっ」

「ちょっと、なんて物見せるのよ」

「ああはなりたくないな」

「ふふっ」

「くははっ」


 ニオブの様子を見て観客から笑いが広がる。


「勝者、タイト」


「お疲れ」

「素晴らしい魔法だったわ」


 マイラとセレンが俺をねぎらってくれた。


「何であんなにダメージが少なかったんだろ」

「それね。人間とかモンスターは誰しも魔力を持っていて、他人の魔力は反発するの。きっとニオブの持っている魔力が高いのでしょう」


 魔力の高い者は魔法の利きが悪くなるのか。

 貴族がなぜ魔力にこだわるのか分かる気がする。

 攻撃と防御が上がるのだな。

 なるほど。

 考察は後にして、挨拶を終わらせよう。

 再び俺は壇上に戻った。


「無限の可能性を広げ、魔法の真理に到達すべく、精進を重ねたいと思います。新入生代表、タイト」


 挨拶が終わった。

 式も終わり、ニオブが俺に寄って来た。

 懲りない奴だな。


「俺に恥をかかせやがって」

「何だ、まだやられ足りないのか?」


「お前、何なんだよ! おかしいだろ。何でやられない」

「そりゃ、お前が弱いだけだ」


「絶対おかしい。お前のバックについている魔導師は誰だ?」

「魔導師なんか知らないが」

「嘘を言うな。身体強化の魔道具を魔導師から無理を言って借り受けたのだぞ」


「ああ、最初に突っ込んで来たあれね」

「それに試験だ。俺は魔導師に通話魔法で答えを教えてもらったのだぞ。魔導師が魔力切れになって、全部答えは教えてもらえなかったが。お前のバックには何人の魔導師がついているんだ?」


「くどい。魔導師の知り合いなどいない。それより、お前、カンニングしたのか?」

「良いんだよ。貴族は許される」


 こいつ、更生する余地がないな。

 だが、いっぺん酷い目に遭わさないといけないと思う。

 そのねじ曲がった根性を叩きのめさないと、自分が死に値する事をやってきた自覚がないままに殺す事になる。

 手間をかける程ではないが、機会があればコテンパンにしてやろう。


「話はそれだけなら行くぞ」

「見てろよ。いつかお前のバックを突き止めて、その魔導師全員を買収して、お前の味方をなくしてやる」


 そう言うとニオブは去って行った。


「殺しちゃ駄目?」


 いつの間にかマイラが来て話を聞いていたようだ。


「殺すと少し厄介だ。機会が来るまで我慢だ」

「うん、我慢する」


 敵のいない人生も味気ない。

 ニオブは人生のスパイスだとでも思っておこう。

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