第11話 奇襲と、昇級と、出来ない通話

 俺はレストランに行くと、スペルブックを開き、問答無用で電撃をばら撒いた。

 一般客も巻き込んだが、気にしない。

 運が悪かったんだ、許せ。


 一緒に来たマイラが人さらい組織と思われる人の足を切り裂く。


「通報があったのはここか」

「お巡りさんこっちです」


 兵士がなだれ込んで来た。


「全員、痺れているな」

「坊主達がやったのか?」

「そうだよ。いちど誘拐されているからね。報復だよ。冒険者は舐められたら終わりなんだ」

「ははは、いっぱしの口を利く」


 全員が逮捕されて行った。

 昼飯を食べてギルドに行く。


「ちょっと、マイラ!」


 また受付嬢に呼び止められた。


「何っ?」

「あんたやったでしょ」

「何を?」

「もう、しらばっくれて。人さらい組織を壊滅させた子供の二人組って、あなた達よね」

「壊滅はしてないと思うけど」


「聞いたわよ。違法奴隷が大量に見つかって、レストランの客には取引相手がいたって」


 知らんがな。

 ただ、拠点を一つ潰せればいいなとは考えた。

 それだけだ。


「そんなに大した事はしてない心算つもりだけど」


 マイラが黙ったので俺が代わりに答える。


「だって組織の人間が15人よ。関係者が4人。見つかった違法奴隷が57人」


「へぇ、違法奴隷がそんなに居たのか気づかなかったな」

「娼館が同じ建物の二階にあって。子供に聞かす話じゃないわね」


「子供に聞かせられる話は?」

「組織の人間の口は堅いけど、取引相手はそうじゃなかったみたい。芋づる式で一網打尽よ」

「不思議なんだけど、普通の客と取引相手の選別はどうやったの?」

「嘘判別魔法を使ったに決まっているじゃない」


 そんなのがあるんだ。

 俺にも使えるだろうか。

 魔法のイメージが湧かないのだが。

 汗とか心拍数とかで判別するのかな。

 まあいいや、使う予定もないしな。


「用がそれだけならもう行くわ」

「マイラがそう言っているんで」


「ちょっと待って。警備兵から感謝状が届いているわ。それと冒険者ランクが昇級ね。Eランクよ」

「昇級は順当ね」

「依頼をやったのはゴブリン退治だけだけど」


「最短で最年少の記録よ」

「嬉しくない。私達の実力を持ってすればAランク依頼も容易いわ」

「まあまあ、一歩ずつ行くのが楽しいんだ。旅行だってそうだろ、一瞬で目的地に着いたら味気ない」


「タイトって屋敷から出た事がないんじゃなかった?」

「一般論だよ」


 危ない危ない。

 転生したのがばれるところだった。

 別に転生に関しては恥ずかしくない。

 しかしだ、いい年した大人が、子供になっていると知られたら、引かれる場面も多々ある。


 特にマイラが可愛いなんて言うと大人だと完全に変態だ。

 俺の可愛いは子供に対して純粋に可愛いだ。

 老人が近所の子供を愛でる気持ちだ。

 そこだけは譲れない。


 それにマイラに嫌われたらこの世界で生きていけないかも知れない。

 なにせ生活関係の知識がゼロだからな。

 マイえもんは手放せない。


「タイト、顔が難しくなってるわよ」

「おう、悪い。ちょっと考え事だ」


「あなた達お似合いね。このまま夫婦になりそう」


 やめてくれ。

 何度も言うようだが、ロリコンちゃうわ。

 マイラは顔を少し赤くして俺を見て微笑んでいる。

 くそう、この問題はマイラが成人を迎えるまで棚上げだ。

 その頃になったら、マイラにも好きな男が出来るかも知れないからな。


「そうだ、マイラのブラックリストを抹消してくれ」

「それはCランクになったらね。Cランクから商人の護衛依頼の資格が出来るからその時に」


「聞いた? Cランクになれば抹消されるんだって」

「聞いてるわよ。それならあっという間ね。次はオーガを狩りに行かない?」

「言っただろ。過程を楽しむんだって」


「言っておくけど、冒険者の仕事を甘く見ない方がいいわ。ゴブリンの次は大抵ウルフを狙うんだけど。そのスピードに、手も足も出ないで死ぬ冒険者も多いわ」


 スピードが速い敵か。

 ファイヤーボールでは当たらないかもな。

 範囲攻撃か、誘導弾が欲しいところだ。

 どっちも楽勝だけどな。


 ここいらで常識のすり合わせをしておきたい。

 俺はスペルブックを開き、電撃の球を一つ浮かべた。


「これを千個同時に、出せるって言ったらどう」

「ドン引きよ。偉業を通り越して変態の所業よ」

「タイトは変態じゃない。大魔導師」


「そうね、大魔導師を名乗れるかもね。ただ魔導師の資格は通話魔法が使えるかどうかで決まるわ」

「そんなの『かの者に声を届けよ』みたいな呪文でいけるんじゃない」

「やってみたら良いわ」


「【かの者に声を届けよ】。マイラ聞こえる」

「普通の声しか聞こえないわ」


「駄目なんだね。何でだろ。ええと空気の振動を電気信号に変えて飛ばす。そうか、受信側が電気信号を音に変換しないと」

「いやだ。この子、何者?」

「タイトはタイトだよ」

「ちょっと、かしこ過ぎない」


 うわっ、思いっきり疑われている。


「本を読むしかする事がなかったから」


 今日はもう帰って寝よう。

 墓穴を掘るような気がする。

 今日だけで何個、転生者だって臭わせただろう。

 気を付けないと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る