第134話 謁見室と、口惜しいと、虫の始末

Side:ファラド当主

 ここはファラド一族の本拠地の最奥。

 秘密の謁見室。

 わしは円卓に着き、周りを見回した。

 席は五つあり、そのうちの一つは空席になっている。


 隣の席には仮面を被った男が座り、その隣の席には白衣を着た男が座っている。

 そして、隣には空席があり、その隣には盗賊風の身なりの男が座っている。


「闇が死に、仮面も大半がやられた。無傷なのは白衣と透明腕か」

「お館様、お下知を」


「最優先事項は、タイト・バラクタ。奴の魔法キャンセルの秘密を奪い去り、何としても殺すのだ」

「承知」

「了解しました」

「おう」


「では去れ」


 三人の幹部が去って行き静寂が辺りを支配した。

 目下の敵は、反魔導師組織レジスタ、オルタネイト伯爵、王家とそして一番厄介なのはタイトだ。

 タイトがなぜ厄介かと言えば、魔導師にも使えない魔法を駆使するからだ。


 わしでも魔王を従えるなどという事は出来ん。


 後ろの幻の壁をすり抜け、秘密の謁見室を出て、階段を上がる。

 もう一度、幻の壁をすり抜けて書斎にでた。


「お爺様、こんな所にいらしたのですか」

「おう、可愛いわしのラチェッタ。よく顔を見せておくれ。そなたの顔を見ると元気が出るのだ」

「お爺様ったら、嫌ですわ。まるで幼子の様に私を扱って」


 わしの表の顔は村長。

 昼は農作業をして、夜は家で好々爺を演じておる。

 もちろん村の人間の大半はファラド一族で占められている。


 さて、野菜の状況でも見ようかね。


 野菜を見ながら考える。

 魔法をキャンセルするには魔法を乗っ取る必要がある。


 魔法を乗っ取るには他人の魔力に干渉しなきゃならん。

 仮面から聞いた駒に使った少年がその能力を有していたという。

 ならば、ファラド一族の中におるやもしれん。

 研究する必要がありそうだ。


 他人に出来るのならわしにも出来るはずだ。

 魔力とは何だろう。

 不思議な力としか分かっておらん。

 魔法陣ラジオなる物も手に入れたが、あれの仕組みも分かっておらん。

 なぜ、魔報と違う仕組みで声が届くのか。


 世の中に解明されてない不思議のなんと多い事よ。

 タイトはこの謎を解いたというのだな。

 奴は、神の知識を持つのか。


 口惜しいぞ。

 腹立たしい。

 わしは魔導師の頂点なるぞ。


 そのわしに分からなくて、タイトには分かっている。

 許せるものか。


「お爺様、恐い顔」

「すまん、ラチェッタ。怖がらせたかのう。害虫がうるさくての」

「見当たりませんけど」

「わしには見えるのだ。おっきな害虫がな」

「変なお爺様」


 ファラド一族の一人がわしに近寄ってきた。

 メモを渡して離れる。

 タイトはバリアブルに攻め込む時に、浮かぶ板に兵士を乗せて運んだと書いてある。

 風の力で浮かばせるのは不安定になる。

 おお、そういえばタイトが魔法学園の文化祭で、人を浮かして遊んでいたと報告があった。


 遊戯だと馬鹿にしておったが、浮かぶ力は確かに使える。

 輸送に使えば革命が起こる。


 どういう力なのだ。

 分からん。

 雲を浮かばせているのと同じ力だろうか。

 雲が浮かぶなら人も浮かぶであろう。


 だが、その力が分からん。

 イメージが出来ん。

 どんな力が作用してるのか。


 くう、口惜しい。

 どうしたら物が浮かぶのだ。

 風の力か。

 そうに違いない。

 それには制御のイメージが難しい。


 【魔力よ風を起こし、石よ浮かべろ】。

 わしは無詠唱を使い風の力で石を浮かせた。

 何だ、わしにも出来るぞ。


 おっと、石がバランスを崩して、飛んで行ってしまった。

 なぜだ。

 なぜ上手くいかない。

 タイトのスペルブックを強奪せねば。


 スペルブックは時間が経てば経つほど、呪文が増える。

 奴をじわじわ苦しめて呪文を増やすのだ。

 苦境に陥れば、増えるに違いない。


 総攻撃はせずに手を緩めるように通達しておこう。

 今のうちにいい気になっているが良い。

 そのうちに秘密を丸裸にしたやろうぞ。


「お爺様、また怖い顔」

「すまんのう。虫をどうしようか考えておったのだ」


 数は力よ。

 わし達の優位は揺るがん。

 しょせん虫が数匹、どうとでもなるわ。

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