第51話 婚前旅行と、剣技と、知覚

 学園に帰って姿隠しを使いサージの部屋を訪ねたが不在。

 ニオブの部屋も不在。

 バリスタの部屋も不在。

 いきなり奇襲して制圧しようと思ったのに。

 殺すのも止む無しまで意気込んだのにな。

 噛み合わない時はこんなものか。


 俺は寮の中でニオブのクラスメイトをつかまえた。


「ニオブが居ないんだが」

「ニオブなら婚約者のバリスタさんと旅行に行ったよ。羨ましい。きっといかがわしい事をしているぜ」


 ニオブのしもの話はさておいて。

 サージまで居ないとなるとただの旅行じゃない気がする。


「どこに旅行に行ったか分かる?」

「それが秘密なんだってよ。嫌らしいよな」

「ああ、そうだな」


 ニオブ達が帰ってくるまで捜査は進展しないようだ。

 仕方ないのでマイラを探す。

 マイラは修練場でセレンと布と綿で作った剣を打ち合っていた。


「二人とも精が出るね」

「タイト、セレンでは弱くて相手にならない。精は出ない」

「言ったわね。今度はギタンギタンにしてやるんだから」


 二人が何でこんな事をしているかと言えば、剣技大会があるからだ。

 魔法と魔道具が禁止の大会で、なんで魔法学園でという思いはある。


 もっとも魔法神秘名が分からないと身体強化魔法は掛けられない。

 とにかく運動能力のみの大会だ。


 俺は一回戦で敗退予定だ。

 こんなのプログラマーの仕事ではない。


「マイラ、ちょっと」

「何?」

「【バックアップ、マイラ】。これでマイラは無敵だ」


 ちなみに魔法はこんなだ。


#include <stdio.h>

#include <stdlib.h>

void main(void)

{

 system("copy モンスチ.body モンスチ.bbak"); /*マイラの体のバックアップを取る*/

 system("copy モンスチ.soul モンスチ.sbak"); /*マイラの魂のバックアップを取る*/

}



「よしマイラ、セレンの相手を代わろう」

「むっ、嫌っ」


 俺も体を動かさないといけないと思ったんだがな。


「マイラ、俺の相手をしてくれるか」

「うん」


 喜色満面のマイラ。


「私は誰に相手して貰えば良いのよ」


 代わって不満気なセレン。


「セレンはそこらの男をつかまえれば良い」

「もう」

「悪いな、セレン。また埋め合わせはするよ」

「仕方ないわね」


 俺は壁から布の剣を手に取ると構えた。


「掛かってきなさい」

「いくよ」


 俺は布剣を何度もマイラに打ち込んだが、ことごとく受け止められた。

 俺ではマイラの準備運動にもならないようだ。


 散々、打ち込んだら、息が切れた。


「はぁはぁ、ごめん。息が続かない」


 俺は構えを解いて降参した。

 それにしても、マイラは強いな。

 マイラに対抗するにはスピードが足りない。

 筋力は魔法で増やせるが、運動能力は増やせられない。

 思考加速が出来れば良いんだが。

 どうやるんだ。


 ニューロンの働きを活発にするのか。

 どうやって?

 『clock関数』はあるけど、これって時間計測の為の奴だし。


 そうか、知覚する呪文を無限ループさせれば。


extern void perception(void);

void main(void)

{

 while(1){ /*無限ループ*/

  perception(); /*知覚*/

 }

}


 やってみたが失敗した。

 失敗というか何にも変わらなかった。

 考えてみれば分かる。

 通常、人間の知覚が途切れる事はない。

 常に知覚したところで、思考加速は出来ない。


 ただ、収穫もあった。

 目をつぶっていても、周りが分かるのだ。

 耳を塞いでいても音が良く聞こえる。

 健常者には役に立たないが、良い物が出来た。

 これを魔道具としてそのうち売り出そう。


 思考加速は俺の知識では無理なようだ。

 無理な事は後回しにしよう。

 今、出来る事は。

 そうだ、マイラ用に無限回復の魔道具も作っておこう。


#include <stdio.h>

#include <stdlib.h>

void main(void)

{

 while(1){ /*無限ループ*/

  system("copy モンスチ.bbak モンスチ.body"); /*マイラの体を治す*/

 }

}


 これで即死しない限りは平気なはずだ。

 ゴブリンの魔石で持続時間を試したが、半日ぐらいはもった。

 これでは心許ないのでEランクの魔石で作ったら、持続時間は2週間に。

 これで一安心だ。

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