第50話 魔石の流通と、売買記録と、怪しいニオブ達

 冒険者ギルドの受付カウンターに並ぶ。


「また、あんた達なの。有力な情報なら入ってないわよ。帰った帰った」

「今日は魔石の取引について聞きに来たんだ」


「その情報は開示できないわ」

「タイトが王族だと言っても」

「マイラ、無理だと思う。諦めよう」


「そうね。王族としての権利を主張するなら、成人しないと」

「そんな事だと思ったよ」

「タイトは押しが足りない。こういうのはぐいぐい押せば何とかなるものなの」

「ならないわよ。首が掛かってるからね」


「ほら、ああ言ってるし。別の手を考えよう」


 うーん、オルタネイト商会に行って業界の話を聞くか。

 あそこなら魔石がどこに流れているか朧気おぼろげに把握しているかも知れない。

 とりあえずは元締めの所に行って紹介状だな。


 元締めは快く紹介状を書いてくれた。

 オルタネイト商会に行くと応接室に通された。

 ここに来るのは二度目だ。


「おや、一度お会いしましたよね」

「ええ、ランシェに連れられて来ました」

「今日のご用件はなんですかな」


「魔石に怪しい大量取引がないか調べている。噂でも良いから聞いた事がないかな? 何でも良いので」

「ございませんな。魔石は宝飾品として普通は使わないので、魔道具以外の用途がありません。魔石取引のお得意様は魔道具関係に限られます。よそ者が大量に取引するのなら噂が立ちます」


 うーん、なかなか手掛かりがつかめない。

 王都でなく、地方で仕入れたということも考えられる。

 闇商人を使ったのかも。

 色々な可能性が考えられる。


「タイト、人を隠すなら人の中だよ」

「正規の大口取引って事か。だとすると横流しだな」

「それが可能なのはうちとバリアブル家だけですな」


「オルタネイト商会は信用しているよ。ゴブリンクラスの魔石しか仕入れてないでしょ。となると残ったのはバリアブル家か」

「バリアブル家は素直に教えてくれそうにないわよね」

「ああ、その通りだ」


 さて困ったぞ。

 どうしよう。

 ええと、何か引っ掛かる。

 何だろ。

 何か忘れている気がするんだ。


 駄目だ思い出せない。


「アヴァランシェ様にお会いしましたら、よろしくお伝え下さい」


 俺はポンと手を打った。

 それだ。

 ランシェの所には一ヶ月間の魔石売買の記録がある。

 納入先も記載されていたから、魔石の行先が分かる。

 見せて貰いにいこう。


「手間を取らせたね。ランシェにはよろしく言っておくよ。マイラ、行くよ」

「さよなら」


 オルタネイト商会を出て王宮に向かう。

 マイラの許可証は持ってないので、俺だけでランシェの執務室に行った。


「久しいな」

「突然だけど今日は頼みがあるんだ」

「何だ言ってみろ」

「魔石の売買取引の写しがあったよね。見せてほしい」

「構わないが、何か掴んだのか」

「それをこれから調べるところ」

「まあいいだろ」


 ええと、バリアブル家の記録は?

 これだ。

 納入先は全て工房だな。

 工房から横流ししたのでは俺には分からない。


 帳簿をめくる。

 んっ、これは何だ。


 納入先、ニオブ。

 備考として目的が書いてある。

 なになに、新しい魔道具開発の研究用としてか。


 怪しいな、Bランクの魔石が100個か。

 ニオブの小遣い事情は知っている。

 月に金貨1枚ぐらいしか貰ってないはずだ。


 お小遣いを貯めれば買える値段だが、あいつがそんな事をするか?

 絶対にやらないな。

 全財産賭けても良い。

 タンタルが出したという線もないだろう。

 新しい魔道具を開発するなら、懇意こんいの工房と協力してやるはずだ。

 どこからか金が出ている。


 これを突き止めるのは難しいな。

 ここまでか。

 仕方ない奥の手を使おう。


 俺はランシェに礼を言って立ち去ると、マイラと合流。

 ここからはマイラの演技力に掛かってる。

 マイラがかつらを被ってローブを着て変装する。

 20歳に年齢を誤魔化す魔道具を使ったから、知っている人でもばれないはずだ。


 そして、再び冒険者ギルドに行った。

 俺は姿隠しを使ってだ。


「バリアブル家のニオブ様の使いで魔石を取りにきました」

「あれっ、注文は入ってないはずだけど」

「あの前任者は何か言ってました? あの人使い込みがばれて首になったんですよ」


 いいぞマイラ、完璧だ。


「何も言ってなかったわよ」

「ちなみに前任者はどんな格好でしたか? 人違いだと困るので」

「ローブを着た男の人だったわ」


 分かったサージの野郎だ。

 俺はマイラの耳元で囁く。


「そうそう、その人です。名前がサージで間違ってなければ」

「ええ、その人で間違いないわ。一回、お嬢さんを連れて来ていて、お嬢さんがサージ小父さんって呼んでいたから」

「何か言ってませんでした?」

「注文の事以外には何も」

「そう、ありがとう」


 俺は姿隠しを使ったままその場に留まった。


「さっきのサージって気味悪い男でしょ。あの事を言わなくて良かったの」


 しばらくたって窓口に人が途切れると受付嬢同士が雑談を始めた。


「人を見る目が、物を見る目だなんて言っても、仕方ないわよ」

「嫌だ嫌だ。犯罪の匂いがするわ」

「あの目は奴隷商の目よ。絶対になんかやっているわ」


 それから、何時間か粘ってみたが目ぼしい話は聞けなかった。

 ニオブがサージと何かやっているというのは決定だな。

 連続殺人に関係ありそうだから、人体実験だろうけど。


 目的が何かまでは分からない。

 しかるべき所に訴えるとしても証拠が無い。

 研究用に魔石を買ったというだけではな。

 仕方ない、学園でニオブかサージを締め上げるとしよう。

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