第206話 軍事演習と、ドローンと、セレンの料理

「僕はあんな結末を認めない。財力など人間性には何にも関係ないんだ」


 授業が終わり、ベークがそう言ってきた。

 みんなが何事かと注目している。

 別にお前に認めてもらう必要はないんだが。


「用件があるなら早く言え」

「勝負のやり直しを要求する」

「どんな勝負がしたいんだ?」

「大将は戦闘に加われない100対100の軍事演習だ」

「なるほどな。俺とお前は指揮をとるだけか」

「そうだ」

「勝敗の判定は誰がやるんだ?」

「王家だ。もう話は通してある。この話、受けるよな。逃げたら卑怯者と呼ばれるぞ」


 王家が絡んでいるのか。

 別に社交界でハブられても別に問題はないが、ランシェの顔に泥を塗るのは避けないと。


「レクティ、すまないが、オルタネイトの兵を貸してくれるか」

「はい、喜んで、助太刀いたしますわ」

「では、10日後だ」


 全く、鬱陶しい奴だな。


「ベークを軽く調べました」

「仕事が早いな。どういう奴だ」

「ライト伯爵家の嫡子で、少しおつむが足りないようです。今までにも問題を起こしてます」

「そうだろな。そんな感じがしたよ。軍事演習は参謀が指揮を執るんだろうな」

「ええ、そうだと思います」


 良い事を考え付いた。


「俺は軍を動かした事がない。だが、どんな要素が必要かぐらいは分かっている」

「頼もしいですね。それで、どうするつもりですか」


「索敵と連携だ。武力が同じなら情報を握っている方が強い。俺なら魔法陣ラジオを利用するな。これで連絡を取り合う」

「敵も同じ事を考えたようです。ライト家から注文が入ってます。注文をキャンセルしましょうか」

「いいや、売ってやれ」

「連携の力が同じになってしまいますが」

「妨害電波を出す。妨害するのは容易い。周波数を合わせて強力な電波を出せば良い。それでもって自分たちの周波数帯は妨害しない」


「相手も同じ事を考えるのでは?」

「そうだろうな」

「結局、魔法陣ラジオは使えない事になりそうですね」

「俺には魔力通信機があるのを忘れたか」

「そうでした。サイラさんとマイラさんが、それで話をしていると聞きいてます」


「魔力通信機の妨害は難しい。何でかと言うと、魔法は召喚魔法だからだ。空間を無視して魔力が届く。途中で妨害出来ない。妨害するには魔道具の停止だな。俺には出来るが、ベークには出来ないだろう」

「なるほど。これなら勝てそうですね」


「まだまだあるぞ。魔道具の鳥を飛ばす。その鳥の視界を得れば、戦況が丸わかりだろう」

「ええ」


 魔道具の鳥、いわゆる偵察ドローンは今まで技術で出来る。

 サイリスを作った技術と、感覚共有と、浮遊する板を使えば簡単だ。


「指揮はオルタネイトの誰かに任せたい」

「わたくしにお任せ頂けませんか。一度やってみたかったんです」

「レクティの好きなようにやって良い。今回負けたら、お前はやり直しを要求したのだから、俺もだと言って、3回勝負に持ち込むさ。もちろん負けてやるつもりはない」

「ずるいですが、その狡さは良いですね」


 勝負の話を聞いて、セレンが俺の所にやってきた。


「私に手伝えることはありませんか」

「うーん、そうだな。兵士に料理を振る舞ってやれ。女の子の料理を嫌いな奴はいない」

「分かりました。私は役立たずではないんですね」


「100人分の料理を作るのは大変だろうから、他の人にも頼もうか。マイラとリニアとベスはやってくれそうだけど」

「いいえ、運搬は任せるかも知れませんが、作るのは一人でやってみたい」


 まず、高出力の魔法陣ラジオの発信機を手に入れた。

 これで妨害電波はばっちりだ。


 魔力通信機を作る。

 こちらはやった事のある作業なので簡単だ。


 ドローンも既存の技術で何とかなった。


 今日はドローンの試験の日だ。


 ドローンの魔道具を起動する。

 姿隠しが発動して、魔道具が消える。


 ふわりと浮かび上がっているはずだが、目には見えない。

 飛行音もしない。

 動かすと、ドローンの視界が見える。


「そこにいる」


 マイラがドローンを突いた。


「何で分かった?」

「空気の流れで。でも近くに来ないと分からない」

「達人には分かるのか。注意しておこう」


 テストは成功した。

 寮の厨房ではセレンが一生懸命、料理を作っている。


 みんなが集まった。

 試食会が始まった。


「なかなかいけるよ。いいお嫁さんになれるよ」


 と俺はおだてた。

 セレンは顔を赤らめた。


「75点」


 マイラの評価は辛口だ。


「もう少し塩気があったほうがよろしいかと。兵士は肉体労働ですから」


 そう、レクティが言った。


「私的には満足かな。これなら何杯でもいける」


 リニアは満足しているようだ。

 おおむね、好評だな。

 セレンは役に立ったのが嬉しいらしい。

 大量に作る為の下ごしらえを、張り切って始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る