第363話 筋肉と、脂肪と、手下

「筋力強化の魔道具あるよね。あれって何で効果が持続しないの」


 婚約者であるマイラからそう聞かれた。


「ええと、何でだったっけ。見てみるよ」


 魔法の呪文を確認してみる。


 ええと、体にある筋肉の数値を足し込んでいるだけだ。

 魔力が筋肉の代わりをしているんだな。

 永久的には筋肉は増えない。

 それをするにはどっからか、筋肉の素をもってきて増量する必要がある。

 流石にモンスターの筋肉を移植するわけにはいかない。

 死体からも嫌だな。


「筋肉の材料がないと駄目みたい」

「じゃあさ、脂肪を材料にやってみたら」


 脂肪を減らしてその分を筋肉にするのか。

 出来るけど、脂肪がゼロになると死ぬよ。

 その辺は少しずつやって行けば良いのか。


 まず、筋肉細胞の数をカウントする。

 その分だけ脂肪を削る。

 削った分を筋肉細胞にまわす。


#include <stdio.h>

#include <stdlib.h>

#include <string.h>


extern void mystery_magic_name_get(char *str);

extern void cut_fat(char*str,long *charge);

extern void muscle_building(char *str,long *charge);

extern transform(char *str);


void main(void)

{

 char str[256+5]; /*神秘魔法名の格納場所*/

 long charge;

 mystery_magic_name_get(str); /*神秘魔法名ゲット*/

 strcat(str,".body"); /*神秘魔法名に『.body』を連結*/


 cut_fat(str,&charge); /*脂肪を削る*/

 muscle_building(str,&charge); /*筋肉増強*/

 transform(str); /*変身*/

}


 これでいいはずだ。

 もっと細かくプログラムを書けば魔力消費は減るが、魔力消費量は気にしないで良いだろう。


 魔道具を起動するとマイラの体が引き締まっていく。

 むっ、全体的に脂肪が減っているな。


「あー、バストが小さくなっている。元に戻してよ」


 結局、逆のプログラムも作る事になった。


「運動するみたいには綺麗に痩せないよ」

「魔法も万能じゃないのね」

「個別ならいける」


#include <stdio.h>

#include <stdlib.h>

#include <string.h>


extern void mystery_magic_name_get(char *str);

extern void armpit_shape_up(char*str);

extern transform(char *str);


void main(void)

{

 char str[256+5]; /*神秘魔法名の格納場所*/

 mystery_magic_name_get(str); /*神秘魔法名ゲット*/

 strcat(str,".body"); /*神秘魔法名に『.body』を連結*/


 armpit_shape_up(str); /*脇腹のシェイプアップ*/

 transform(str); /*変身*/

}


 こんな感じだな。


「こっちの魔道具の方がいいね」

「運動して脂肪を落とすイメージだからな」


「あごの下とか。二の腕のたるみとか。太腿とか。とにかくバリエーション作ってよ」

「なになに?」


 同じく婚約者であるリニアが興味を示したようだ。


「体を引き締める魔道具だけど」

「こんな感じに」


 リニアの体が物凄いグラマーになった。

 特別製だからな、リニアの体は。


「モンスター女はしっしっ」

「あまり引き締まっていてもどうかと思いますわ」


 同じく婚約者のレクティがそう口を挟んだ。


「運動する達成感が削がれるのはいけないな」


 と最後の婚約者のセレン。


 筋肉に関する美意識がみんな違うようだ。

 でも魔導道具のバリエーションを作るたびに嬉々として持っていった。

 なんだかんだで興味があるんだな。


 俺は最初に作った。

 脂肪を筋肉に置き換えるので良いと思う。

 筋肉にこだわりはないからね。


 前衛タイプでもないし。

 それなりの体型なら文句はない。

 売り出したところ。

 シェイプアップの魔道具は売れに売れた。

 みんな筋肉を愛しているんだな。

 ただ、鍛練の苦痛と天秤に掛けて負けてしまうだけだ。


「筋肉と脂肪はね。手下のチンピラみたいなものよ。目を離すと懐に貯め込んで、使えるようにしごくと不平不満が出るのよ。楽に肥え太るのは一瞬で、訓練するのは大変。筋肉は使える手下。だけど、増長させすぎると、目障りになる」

「まあな」

「でもそういう手下は殺してしまえば良い。それがタイトの作った魔道具。じつに良いわ。使えない手下を殺してさっぱりした気分」

「言い得て妙ですわね」


 女性にとって脂肪は目の仇だとよくわかった。

 胸とかは別にして。

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