第398話 ベヒモスと、石英コインと、問題点

 ここら一帯を牛耳っている最後の魔王に会いに行くことにした。

 最後の魔王はベヒモス、象の姿をしている。

 樹でも草でも何でも食ってしまう。

 その食欲は地竜のトプスに引けをとらない。


 ベヒモスの領域もかなり荒れ果てている。

 草や樹を育てるといった考えはないようだ。


 俺達が領域に入るとベヒモスは速攻で姿を現した。

 そして舌なめずりする。


 俺達を餌認定しているらしい。

 象は草食だが、こいつは雑食なのかな。


「話し合いにきた」

「ふん、我が領域の物は全て俺のものだ。小石ひとつとて譲るつもりなどない」

「獣人を住まわせ、草木を育てるのはどうだ」

「勝手にしろ。だが、育てた草木は全て俺のものだ」


 さて、ベヒモスの領域でなにか生産しなきゃならない。

 何なら許してくれるのだろうな。

 そんなに強欲なら騙してやれ。


 石英でお金を作り、ベヒモスから買う。

 石英なら土の中にいくらでも埋まっているから無尽蔵だ。


import magic


quartz=[]*10 # 石英

transform_coin(quartz) # 石英をコインの形に


「どうだこれが欲しいか」


 俺は石英で作ったお金を見せた。


「そのキラキラした物はなんだ」

「お金だ。人間はこれで売り買いする」

「欲しい」


 良い具合に食いついてきたな。


「なら獣人が育てた野菜と交換だ。獣人が勝手に育てた野菜なら、お前の損にはならないだろう」

「うむ」


 馬鹿な奴だ。

 透き通っているから宝石だと限らない。

 見た目しか見てないから騙される。

 こいつがあとで騙されたことに気づいても、正当な商取引だから、大義名分はこちらにある。

 暴れたりしたら、心置きなく討伐してやろう。


「いいのか。きっと裏切るぞ」


 帰り道、クリアがそう忠告した。


「その時はその時だ。討伐しちまえばいい」

「初めから討伐するという選択肢はないのか」

「クリア、お前、獣人と付き合って毒されているぞ」

「あんな奴らと一緒にするな」


「知的生命体には敬意を払う。話し合えるうちはな」


 ベヒモスの領域への入植が始まった。


「モンスターを殺してきた。キラキラしたお金をくれ」


 ベヒモスは雑食ではなかったようだ。

 モンスターを殺して、獣人に売ることを覚えたようだ。


「おお、象神様。ただいまお金をお持ちします」


 獣人がお金をうやうやしく差し出す。


「これっぽっちか」

「エルフが渋っておりまして」

「くっ、仕方がない。野菜が出来たら金を納めるのだぞ」

「それはもう」


 石英のお金なんて価値はほとんどないのにな。

 誰かが言わない限り大丈夫だろう。


 石英のお金は獣人も欲しがった。

 石英のお金を作る魔道具はエルフに預けることにした。

 需要と供給のバランスを上手くとってくれるに違いない。


「竜神を従えしマスター、野菜が全滅しました」


 リッチのエリアに入植した獣人が報せにきた。


「何だって」


 現場に行くと、水のやり過ぎで野菜が腐ってた。


「いかがしましょう」

「水のやりすぎだ。お前らだって水を飲みすぎると苦しくなるだろう。植物も一緒だ」

「そんなことが」

「ただ、野菜の種類によっては水をたくさん必要とするのもある。お前らだって大食いと小食がいるだろう」

「ですな」


「水は大丈夫なのに野菜が枯れました」


 別のエリアの獣人が訴えた。


「世話の掛かる。案内しろ」


 現場に行くと、腐りきってない肥料が作物のそばに撒かれていた。

 これを分からせるのはどうしようかな。


「いかがでしょう」

「お前ら、肉を食う時新鮮な肉以外はどんな肉を食べる?」

「干し肉ですが」

「中途半端な肉は腹を壊すよな」

「ええ」

「植物も一緒だ。肥料は完全に腐らせないといけない」

「なるほど」


「それと近くに撒いたらいけない。近くに大好物があると食い過ぎて腹を壊す。少し離れたところにあるぐらいがちょうど良い」

「もっともです」


 さて、4体の魔王と話をつけたが、まだどこのエリアも不安定だ。

 獣人は農耕民族ではないので、畑の失敗も多い。

 さっきみたいに、水をくれすぎる奴とか、肥料を作物のそばに撒く奴とか。

 とにかく監督してないと色々とやらかす。


 こいつらがまともに農業できるようになるのは何時だろうか。

 エルフがもっと指導してくれたらいいのにな。

 宿敵だったから、わだかまりがあるのは仕方ない。

 俺がここを去ったらリッツの商会に農業指導させよう。

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