第305話 卒業式と、石のピラミッドと、民衆の勝利

 今日は卒業式。

 知り合いに卒業する人はいない。

 従って式にも出席せず。


「来る」


 寮でまったりしていたところマイラがある一点を見つめた。

 何が来るんだ。


「どんな奴だ?」

「分からない。分かるのは物凄い量の魔力が一方向に流れている事だけ」


 魔力を集めるタイプの能力者か。

 核爆弾並みの破壊力なんだろうな。


 魔力を増強する魔法は前に作ったから、それを改造して、集まった魔力を散らす魔法にしよう。

 駄目だ。

 他人の魔力には干渉出来ない。

 くそっ、このままだと、大災害が起きる。


 マイラの案内で現場に行くと、肩パッドを着けた魔戦士が一人佇んでいた。

 その強大な魔力に景色が歪んで見える。


「魔戦士だな。なんのつもりだ?」

「我は第0席次、トライアック。破壊をもたらしに来た」


 真の魔王ならぬ、真の幹部か。


「馬鹿な事は辞めろ。その魔力を解き放ったらお前も死ぬんじゃないか」

「もとより覚悟の上」


 殺したら、集まった魔力がやばい。

 自爆テロみたいなものだ。

 それも核爆弾級の。


 考えろ。

 何か手はあるはずだ。

 引き寄せられた魔力はトライアックの物になっている。

 こちらからは干渉出来ない。


 殺すと爆発。

 意識を奪っても爆発する可能性が大きい。


「マイラ、この場所から非難させてくれ。いいや、王都全体だ」

「分かった」


 石の壁で何重にも囲むしかないか。


「【石の壁】【石の壁】……【石の壁】」

「ふはははっ、無駄だ……」


 トライアックの声が聞こえなくなった。

 こんなんじゃ全然足りない。

 俺は石の壁を積み続けた。


「【石の壁】」

「【石の壁】」

「【石の壁】」


 見ると多数の人が集まって、トライアックの周りに石を積み上げている。


「これで良かったんでしょ」


 マイラ達が人を呼んで来てくれたらしい。

 卒業式で人が集まっていたから、簡単だったようだ。


「【トカラミイ・テチリリ】」

「【トカラミイ・テチリリ】」

「【トカラミイ・テチリリ】」


 ベーク達が街の人を呼んでくれたようだ。

 みんなの手には石の壁を作るソ・ミカカ語のお札が握られている。


 トライアックがいた場所に巨大なピラミッドが形成されていく。

 建物がそれに巻き込まれて、ピラミッドは次第に大きくなり、やがて学園全体を覆った。


 そして、地震が起きた。

 トライアックが大爆発を起こしたらしい。


 石のピラミッドは爆発に耐えた。

 俺達の勝利だ。


 自爆するしか能のない能力者は悲しいな。

 どんな幼少期を送ったのだろう。

 ぬくもりが欲しかっただけなのかも。

 そんな気がした。


 卒業式は滅茶苦茶になったが、王都は守られた。

 学園を再建するのは大変だろうけど、人さえいれば何とかなる。

 そんな気がした。


「財産を全て吐き出して、学園を再建するぞ」

「私も出すよ」


 とマイラ。


「オルタネイトも支援させて頂きます」


 そうレクティが言った。


「僕も些少だが」

「仕方ないな俺も出すよ」


 ベークとリッツも出すようだ。


「そうよ、金額の大小は関係ないよね」


 とセレン。


「私も」

「全魔導師も支援させて頂きます」

「小遣い程度だけど」

「私も」


 俺の話を聞いていたのか。

 俺も、私もという声が広がっていく。


 魔法学園は愛されていたんだな。

 これなら再建はきっと叶うだろう。


「良かったね」


 マイラが俺に寄り添った。


「そうだな。忙しくなる。魔道具を量産してもっと稼がないと」

「私も新しい魔法陣を開発する」


 魔法は何でも出来るけど、民衆の力には敵わないのかも知れない。

 ふとそんな事を思った。

 魔戦士は魔法の使い方を間違ったんだな。


 魔法は民衆に寄りそうベきなんだ。

 魔法は人の友達であってほしい。

 そう思った。


「にゃー」


 ダイナが猫のエレクを抱いて現れた。

 猫も忘れていない。

 全ての生き物にとって魔法は友達であるべきかも。

 事実ドラゴンは魔法を行使できる。


 ゴブリンも出来るかもしれない。

 その力が破壊でなくて、豊かさに繋がってほしい。


 ああ、科学知識と一緒か。

 前世では科学知識が破壊と豊かさをもたらした。


 破壊と豊かさ、技術の持つ宿命なのかも知れない。

 俺はプログラム的魔法を、豊かさの象徴にしたい。

 そう、強く願った。


 その為にも、戦争は駄目だ。

 来年は特使としてディッブに赴くが、絶対に破壊は回避しよう。

 そう心に決めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る