第314話 魔道具と、意識改革と、話し合い

 とりあえず、水生成とコンロと灯りの魔道具を配ってみた。

 便利さに慄けと言いたいが、そんなことはないらしい。

 分かっていたよ。


 だが、下らないとは言わない。

 便利なのは下劣とか蔑んだりはしていない。


 どういう感情なのだろう。


「リッツ、ディッブ人は魔道具に対してどう思っているんだ?」

「道具としてみていて、それ以上でもそれ以下でもないみたいだよ」

「あれば便利だよな」

「でもなくても手作業で何とかなるって考えているみたい」


 何となく分かってきたぞ。

 便利なのは別に恩恵とかじゃないんだ。

 便利なのは嬉しいけど、修行の妨げにもなるし、あってもなくてもいい。

 それぐらいにしか考えてない。


「ディップ人の喜びそうな魔道具って何だと思う?」


 リッツに聞いてみた。


「重力10倍の結界とかかな。修行が進むから」


 ええと、不便な物の方が喜ばれるのか。

 たとえば重さ100倍のナイフとか。

 手動の回すのがくそ重いミキサーとか。


 重さ10倍の結界は作れる。

 不便な道具は魔道具じゃなくてもいいような。

 前世でスポーツジムにあったような機械が作れればいいんだが


 仮にだよ修行に適した魔道具を作ったからといって武力第一主義が改まるとは思えない。

 いいや逆に武力の方が素晴らしいってなるんじゃないか。

 本末転倒だな。


 贈り物用に重力10倍結界は作るけどね。


「どうしたら、デイッブ人に魔道具の素晴らしさが分かると思う?」

「試合して魔道具で勝てばいいと思うよ」


 ええと、魔道具で武力を示しても何にもならない気がする。

 修行するのがばかばかしくなるような攻撃魔道具を作って、それが普及しても、魔闘術が魔道具に置き換わるだけだ。

 デイッブ人の意識改革は難しいな。


 便利さがありがたがられない民族がいるなんてな。

 ほんと予想外だ。

 力で何とかするなら、セレンのメテオ魔法ででもいい。

 あれなら大抵の人間は生き残れないから。


 もっとも試合なら接近されてセレンの負けで終りだけど。


 マイラ達にも意見を聞いてみる事にした。


「ディッブ人に魔道具の素晴らしさを伝えるにはどうしたらいいと思う」

「オーガに魔道具の素晴らしさは分からないわ。無理ね」

「文化的生活を好むのは知識水準がもっと上でないといけませんわ」


「レクティ、トレンは賢いよ。俺達の言葉を喋れるんだから。計算も出来ると思う。魔法学園に入れたんだから」

「これは失礼を致しました。文字を使った文明があるならば、それはそれで発達してますわね。ただ、楽しむという要素がないように思われます。芸術に関する知識水準が低いと言った方が良かったかもしれません」


「道具を使って便利だなと思うのは不器用な人だと思う」

「そうね。私もモンスターの力で大抵のことはできるから、ちょっとした道具は要らないわ」


 ディッブ人は器用なのかも知れないな。

 そう言えば道具をほとんど持ってない。

 たとえば食器。

 見ていたら、サバンナでは土をこねて、土器を即興で作っていた。

 手から炎を出せるから、固めるのも簡単にできるらしい。


 森では葉っぱを折り紙みたいに折って、食器を作っていた。

 確かに器用だ。

 土器作りなんか陶芸に発展してもよさそうだが、飾りなど不要らしい。


 使えればそれでいいという風土だ。


 医療用の魔道具はどうだろうな。

 たぶん病気に負けるのは鍛練が足らないぐらいにしか思ってないのかも。


「魔道具から文化を発展させるのは難しいか」

「演劇とかなら見るんじゃないかな」

「ですわね」


 映像の魔道具は作れるけども。

 ディッブ人のことだから、戦闘シーンのある演劇を好むのだろうな。

 そんな気がする。


 これはという物が思いつかない。


「ディッブ人の価値観を壊すにはどうしたら良いと思う?」

「劇薬で良いなら宗教ね。凶悪なチンピラでも愛を囁くようになるから」

「宗教を道具に使うのはちょっと」

「私もその手は不味いと思うな」


 セレンとリニアはマイラの意見に反対みたいだ。


 俺も不味いと思う。

 宗教って土地になじむと、変な変化をすることがある。

 この国だと、強さを信仰し始めたらとんでもないことになる気がする。

 却下だな。


「宗教は劇薬ですわね。この国にそれが普及したら、どんな化学変化を見せるのか分かりませんわ。統計をとって意識改革した方が有益だと思わせてはいかがですか。数字に訴えるのです」


 レクティの案は理性的だ。


「実利を示せればいいけど。腕力に訴えたりするかも知れないね。私なら騎士道を導入する。何のための力かを意識改革するの」


 リニアの案は絵空事に聞こえる。

 でも面白い視点だ。


「戦いに備えるのは外敵のせいではないのかな。サバンナのモンスターを粗方討伐してしまえば。メテオ魔法なら可能よ」


 セレンはまた物騒なことを言いだしたな。

 草食獣も全滅しそうだ。

 却下だな


 とりあえず、手っ取り早くなどと考えたらいけない問題のようだ。


「みんな、ありがと参考になったよ」


 トレンともう一度話し合う必要があるかも知れない。

 ディッブ人であるトレンにこの国をどう変えたら良いのか考えてもらおう。

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