第99話 決闘と、勝利と、襲撃

 偽ニオブを見ないなと思ったら、偽ニオブが教室で俺にいきなり白い手袋を投げつけた。


「何のつもりだ」

「エアホッケーゲームで決闘だ」


 こいつ馬鹿か。

 あれを作ったのは俺だと知らないのか。

 いや、知ってて挑戦してきたに違いない。

 勝算があるのだろう。

 練習しまくったとかだろうか。


 まあ良い。

 受けてやるとしよう。


「何を賭ける?」

「金貨1万枚」

「受けた」


 俺は手袋を拾って偽ニオブに投げた。


 偽ニオブがエアホッケーゲームを起動しようとする。


「ちょっと待て。俺が魔道具を起動する。イカサマを疑っているからな」

「どうぞ、存分に確かめて下さい」

「おう」


 俺は魔道具を起動して、その時にパスワードを念じた。

 裏技が起動したぞ。


「レディ……ゴー!」


 魔道具から開始の音声が流れる。

 バージョンアップした最新版だな。

 最新版にも漏れなく裏技が仕込んであるから問題ない。


 パックが動き、偽ニオブがマレットで打ち返す。

 カンというかん高い音と共にパックがこちらのフィールドに滑ってきた。

 俺は操作しているふりをして、何食わぬ顔でパックが打ち返されるのを見ていた。

 裏技はパックの動きにマレットが追従するという物だ。

 絶対に負けない。


 何度も打ち返されて、次第にパックが早くなる。

 そして、偽ニオブ側のゴールにパックが入った。

 爆発の効果音が流れる。


「まだ、1ポイント目です。まだ2ポイントあります」

「今なら賭けをなかった事にしてやるぞ」

「ここからは本気です」


 そして、打ち合いが始まった。


「ふっ」

「おっと」


 俺がまばたきした時にパックが打ち返された。

 一瞬パックを見失う。

 見失ったが裏技のマレットの追従は途切れない。

 難なく打ち返して、俺のポイントになった。


「馬鹿な。まばたきの瞬間を狙ったのに」

「俺はこのゲームの達人なんだよ。目をつぶっていても角度でパックの動きは計算できる」

「嘘だ。僕と同じで知覚の魔道具を使っているな」


 こいつの自信の表れは知覚の魔道具か。

 たしかにあれを上手く使えば、能力をアップさせる事ができる。

 俺は使っても大差ないがな。


「魔道具の使用は禁止とか言ってないだろう」

「まだです。条件は五分です。あと1ポイントあります」


 打ち合いは続き、最後のポイントが決まった。


「かけ金を忘れるなよ」

「くそう」


 そして、夕方になり、金貨1万枚が届いた。

 俺は収納魔法で金貨を仕舞った。


 さて、商業ギルドに預けに行くか。

 俺とマイラとレクティとダイナで、学園を出た。


「襲撃者が路地に潜んでます」


 ダイナが警告してくれた。

 俺は浮遊する板を切り離した。

 襲撃者は俺達に目もくれず、板に積まれた布の袋を奪って行く。

 馬鹿な奴らだ。

 こんな事もあろうかと、板には石を詰め込んだ袋を載せておいたのだ。


 それから襲撃はなかった。

 商業ギルドの応接室に入り、収納魔法から金貨を出す。

 無事、口座に金を入れる事ができた。


 寮に帰るとなにやら騒がしい。

 泥棒が入ったみたいだ。

 部屋に帰ると、部屋が荒らされていた。


 偽ニオブは馬鹿だな。

 まあ、奴がやったという証拠はないが、見栄を張って金貨を用意するからだ。

 俺なら踏み倒すがな。


 夜間に襲撃してくるかと思ったら、来なかった。

 商業ギルドに入金したのが分かったのだろう。

 諦めの良い奴だな。


Side:偽ニオブ

 くそう、失敗した。

 決闘に敗れた。

 まさか同じ手を使ってくるとは。

 あの場で急に用意出来たはずはないから、普段から知覚の魔道具は使っているのだろう。

 相手が一枚上手だった。


 かくなる上は。

 街中での襲撃も失敗に終わり、家探しも失敗に終わった。


 情報屋によれば商業ギルドに金は入金されたようだ。

 どうやって金貨を運んだのか。

 謎だ。

 僕の知らない手を使ったのに違いない。

 くそう、全てで上をいかれている。

 なんとか、出し抜かないと。

 次こそは。

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