第100話 邸宅と、契約と、詐欺

「バリアブル邸が売りに出ています」


 レクティが驚いた様子で俺に伝えてきた。


「本当か!」


 偽ニオブの奴、賭けですったものだから余裕がなくなったな。


「ええ、金貨2万枚で」

「値段的にはどうなんだ?」

「お買い得ですね」


 ええと金貨1枚が10万円だとすると、20億か。

 豪邸の値段としては妥当だな。

 手持ちで買える。


「買うか。だが、偽ニオブとタンタルの奴は何か企んでいそうだ」

「あの方はやっぱり偽物でしたか」


「言ってなかったか。マイラによれば歩き方が違うそうだ。記憶を失っても歩き方は忘れないらしい。たぶん筋肉と脂肪の付き方などで歩き方が変わるんだろう。肉体を丸ごと複写でもしない限り同じにはならないんだと思う」

「そうですか。父に警告しておきます」


「それより、詐欺の心配はないのか?」

「商業ギルドが仕切るそうです。まずないかと」


「なるほどね」


 買いたい理由としては一つある。

 タイトの母親の墓が敷地内にあるのだ。

 お墓参りしたいと思っていた。

 それに嫌がらせをした敵だらけの所に眠らせておけない。

 静かに眠っているのを掘り返すのも違う気がする。

 俺が邸宅を買い取れるならそれが良いだろう。


 商業ギルドに打診したところ、俺が買い取れる事になった。

 今日は契約の日。


「では契約を執り行います。契約書を良くご確認下さい」


 俺は契約書を読んだ。

 問題はないようだ。


 タンタルと偽ニオブはニタニタと笑っている。

 何か引っ掛かるが、別に良いだろう。


「では魔法印に魔力を入れて下さい」


 契約書には魔道具が付いていた。

 これが魔法印だ。

 魔力を注ぐと、その後に注いだ人が触ると光るらしい。


 俺は魔道具に魔力を注いだ。


「では魔力印を確認して下さい」


 俺が魔力印に触るとぼやっと光った。

 タンタルと偽ニオブも触るが反応はしない。


「よろしいですね。では契約書は商業ギルドにて保管します。魔道具の魔力が切れたら保管期間は終わりです。それまでに登記を終えて下さい」


 終わったな。

 今のところ問題はないみたいだ。

 俺は商業ギルドのカウンターに行くと登記する作業を依頼した。


「大体、3日ぐらいで終わると思います。登記が終わったらお知らせします」

「ありがとう」


 バリアブル邸に俺は乗りこんだ。

 俺に親切だった使用人を捕まえた。


「使用人全員を集めてくれ」

「はい」


 使用人がホールに集められる。


「俺はこの屋敷を買った。売買契約に使用人の事は書かれていない。今から名前を言う者は首だ」

「横暴だ。この汚い血が」

「俺は王族だ。不敬罪で罪に問えるのを忘れるな」

「くそっ」


 俺は使用人の大半を首にした。

 そしてタイトの母の墓に行って。


「嫌な奴らはこの屋敷に居ない。安心して眠ってくれ」


 そう言ってから花を添えた。

 大掃除も終わったし、今日はこの屋敷に一泊してから、寮に帰るとしよう。


 使用人を首にしたので、オルタネイト伯爵に信用できる流民を紹介してもらった。

 その人達が新しい使用人だ。


 そして夜が明けた。


「旦那様、屋敷を明け渡せとタンタル様の使いの者が参っております」


 やられた。

 どうやったのか分からないが、やられたらしい。

 ここは冷静に情報を収集する事だな。


「使いの者と会う。部屋を用意してくれ」

「はい、ただいま」


 部屋が用意され中に入る。


「明け渡せとはどういう事かな。記憶違いは有り得ないが、ここは俺が買ったはずだ」

「ご冗談を。賃貸されたはずです。証拠の書類も揃っております」

「書類はどこだ?」

「書類は商業ギルドに保管されています。お忘れですか」


 分かった。

 どうやったかは分からないが書類をすり替えやがった。


「で俺にどうしろと」

「一週間後に賃貸の期限が来ます。それまでに立ち退きを。期限になったら商業ギルドで書類の手続きを致します。来なかったら強制的に行います」


 商業ギルドの職員が慌てた様子でやってきた。

 何を伝えに来たかは分かっている。

 書類がすり替えられたとでも言うのだろう。


「大変です。売買契約書が賃貸契約書に変わってます。これでは登記ができません」

「依頼はキャンセルだ。使者君、分かったと伝えろ。そしてこうも言え。首を洗って待ってろと伝えておけ」


 俺は手で首をかき切るポーズをした。

 からくりを暴いて奴らに目に物見せてやる。

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