第98話 知覚の魔道具と、情報組織と、妨害の魔道具

 ノッチはまだ見つからない。

 魔道具職人の見習いという事で、レクティに頼んで伝手がある工房は軒並みあたって貰ったが、駄目だった。

 写真でもあればまた違うのだろうけど。

 仕方ないな。


 今日は前に作った知覚の魔道具の納品だ。


「元締め、絶対に悪人に売らないでくれよ」

「分かってるぜ。体の不自由な人にしか売らないさ」


 だが、ランシェが話を聞き欲しがった。

 寮の部屋まで押しかけて来た。


「死角がないのが、どんなに便利か分からないのであるか。献上致せ」

「仕方ないな。マイラの功績という事でひとつよろしく」

「任せておけ」


「私もほしい」


 マイラも欲しがったので一つ渡した


「私にもよろしく」


 レクティもか。

 見るとダイナも頷いている。

 欲しいんだな。

 持ってけよ。


 揃いも揃って戦闘狂だな。

 そんな目的の為に作ったんじゃないのに。


 マイラとダイナは寮の部屋から出て行った。

 修練場で試すつもりらしい。

 二人とも俺の護衛なんだけど。

 任務はどうした。


 ランシェがいる間は近衛兵が見張っているから、別に良いんだけど。


「お前の兵器開発の才能は稀有であるな」

「褒められてもうれしくない。人を殺す道具より、人を生かす道具を作りたい」


「それは無理という物です。治療も兵を癒すのにも使えます」

「分かってはいるんだ。兵器の開発が文明に寄与しているって事はな」

「博識よな。その若さで知識をどうやって得たか知りたいぞ」

「お父様は、タイト様の頭にはもう一つの頭脳があると思っています。何でも人間は魂と体に分かれているのだそうです。魂がきっと二つあるに違いないと」

「レクティや。魂と体の話はしてはならん。魔導師の秘中の秘よ」

「アヴァランシェ様、分かっております。この場だから申したのですわ」


「それにしも、オルタネイト伯爵の情報収集は見事であるな。部下が優秀なのであろう」

「恐れ入ります」


「そういう機関を抱えているのは金が掛かるんだよな」

「そうよな。わらわもそれは頭が痛い。金食い虫だが、ケチると情報があつまらん」


 レクティとランシェと俺で、スパイ談義をしていたら、先ほど出て行った二人が帰ってきた。


「どうだった」

「別次元、目が二倍に増えると隙が無くなる。それだけじゃない。まばたきも隙にならない。閃光を使われてもこれなら戦えそう。暗闇でもいける」


 マイラは流石に戦闘に詳しい。


「国軍に配備したいほどのものであるな。だが奪われる事も考えねばならん、当分は影だけで我慢しておくか」


 俺は知覚の魔道具を使うと少し混乱する。

 情報量が倍以上になるからな。

 だが、達人クラスだと、何倍も知覚がアップするのだろう。


 対抗策も考えておかないとな。

 目で見てるわけじゃないので、閃光も効かない。

 音も聞いているわけではないので、爆音も効果がない。

 魔法の知覚は魔法で妨害だ。


extern MAGIC jamming(void);

void main(void)

{

 MAGIC *mp; /*魔法定義*/

 mp=jamming(); /*妨害*/

 while(1); /*無限ループ*/

}


 こんなんで良いだろう。

 さっそく魔道具にしてみた。


「おっ、何やら早速つくったのであるな」

「秘密兵器を作ったら、敵に奪われましたというのは間抜けだ。だから、妨害する物を作ってみた」


「ふむ、ダイナ」


 ランシェは作ったばかりの魔道具を起動した。


「知覚の魔道具が使えません。砂嵐の中にいるようです」

「なるほど、そうであるな。奪われた時の事も考えんと。この魔道具も献上致せ」

「分かったよ。褒美は例の奴で」

「ああ、分かっておる」


「やっぱり、道具に頼るのは危険ね。最後に頼れるのは、体という事ね」

「でも使い方を間違えなければ、絶大な武器ですよね」

「そうであるな。間違えなければである。良い事に使うのであれば、良き事よな」


「結局のところ道具は使いようか。悪い事に使うのも、良い事に使うのも、使い手しだいか」

「そうであるな。ナイフとて料理に使えるし、人を殺す事もできよう。作り手の責任はないものと考えるのがよかろう」


 知覚の魔道具については深く考えない事にした。

 犯罪に使われたら、妨害の魔道具を寄付しよう。

 俺のできる事はそんなものだ。

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