第330話 イーサの提案と、アースドラゴンと、暴走

「カクイ・チリリニチミソイ・シライト・ミラカ・クチヒイ・カラ・コイ・ラミイ・ソラナミカスン!」


 イーサが吠えた。


「同盟は一国でなくても構わないはずだと言っている」


 何も言わなくてもリッツが翻訳してくれた。

 まあみんなが同盟したら平和になるんだけど、ロータリは信用できない。


「イーサはこの間の暗殺騒ぎの黒幕とされている」


 ジェフトがそう言った。


「あいつが親玉だなんて器か。丁稚の小僧ぐらいの器だぞ」

「そうだな。ソクニソノイミだ」


 そうジェフトが軽蔑した様子で吐き捨てた。

 同盟破棄派からは反対意見が上がった。

 これは当然だ。


 結局、魔闘術破りがあるイーサは警戒されて、モンスター狩りの試合となった。

 こういう形式の試合もあるんだな。

 標的はアースドラゴンで、生態は草食の、まんまトリケラトプスだ


 草食の大人しいドラゴンを狙うとはイーサの自信のなさが透けて見える。

 俺達は監視の意味もありイーサの後をついていった。


「これだけ見物人がいたら、不正は出来ないよな」

「魔力の怪しい流れは任せて、しっかり見張るから」

「毒の類は任せて下さいませ。見抜いてみせます」


 マイラとレクティに任せれば大丈夫か。

 もっとも、不正をしたところで俺的にはありとあらゆる手段を使うのは容認できる。

 モンスター相手に枷を嵌めるのが間違っている。

 ディッブ人の感覚で言うと、魔道具や毒物に頼るのは邪道というか卑怯な行いなんだろうけど。


 イーサの取り巻きひとりが糞を分析して、アースドラゴンの痕跡を見つけた。

 ジャングルを行くこと30分。

 アースドラゴンの巨体が見えた。

 体高100メートル、体長300メートルぐらいかな。

 その歩く姿は、まるで要塞だ。


 イーサが気合を入れた。

 魔闘術を使い始めたようだ。

 全身を光り輝かせてはいないことから、最終奥義までは会得してないようだ。


「キェェェェ」


 イーサは、高速道路の橋げたほどはあるアースドラゴンの足に、渾身のパンチを叩き込んだ。

 結果はびくともしない。


 それから必死に殴る蹴るするが、アースドラゴンは気にもしなかった。

 木の葉っぱをもしゃもしゃ食べている。

 戦士達から失笑がこぼれた。


 イーサは振り返ると。


「カクイミ・テクン・シラミやカ・ンラナ・シラ・ニカ・ンラナストイリハめ」


 ミカカ語で、そう言って吐き捨てた。


「じゃ、自分でやったらどうだと言っている」


 リッツが訳した。


「ラノ!」


 同盟破棄派の戦士だろう、ひとり進み出た。


 戦士は手を光らせて、アースドラゴンの前足にパンチした。

 アースドラゴンは首を曲げて、足を舐めた。

 ええとどう解釈すればいいんだ。


「くすぐったかったんだと思うよ。その証拠に目にイライラも殺気もない」


 マイラがそう言った。

 戦士みんなが大笑いした。


 イーサは大声で喚き散らしているけど、みんなは意に介さない。

 同盟破棄派の勝利かなとは思うけど。


「ええと、この勝負どうなるんだ?」

「この場合は引き分けだな。引き分けだと提案はなかったことになる」


 ジェフトが解説してくれた。

 イーサが我慢できなくなったようだ。

 魔道具らしき物を出してきた。


 それをアースドラゴンの前足に向かって投げた。

 アースドラゴンの前足は爆炎に包まれ、密林が赤く染まった。

 あの大きさの魔石だとSランクのだな。


 アースドラゴンは怪我をしたのか、悲鳴を上げて、走り出した。


 おい、その方向には首都があるだろう。

 イーサはというと逃げていなくなってた。

 こんな展開はありなのかよ。

 ジェフトに聞こうとしたら、事態収拾のためだろう既にいなくなってた。


「リッツ、ディッブ人的にイーサの行いはどうなんだ?」

「敵わない相手に手段を問わずというのはあるらしいよ。称賛はされないし軽蔑されるけど、負けるよりましだって」


「とにかく俺達も行こう」


 飛ぶ板に乗って、アースドラゴンのあとを追いかける。

 アースドラゴンが通った跡は、樹がなぎ倒されて、道になっている。

 アースドラゴンの姿は遥か彼方だ。

 早いな。

 歩幅が広いからなのだろう。


 そして雷鳴のような衝突音が聞こえた。

 どうやら城壁と衝突したらしい。

 まったくイーサも厄介なことしてくれる。


 さてどうしよう。

 アースドラゴンをなだめるのか一番いいような気がする。

 治療魔法はだめだ。

 魔法は受け入れないと効果を発揮しない。


 ポーションを掛けると傷口に染みてさらに暴れる危険性がある。

 なにか手立てを考えないと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る