第273話 剣技大会と、マイラの魔法と、種明かし

 4月、剣技大会の季節だ。

 大会はトレンが優勝した。

 魔力を循環する技というか体質は、魔法ではないから、反則負けにはならない。


 優勝したトレンは舞台の上でクイクイと指を動かした。

 リニアにリベンジするのか思ったらマイラだ。

 マイラに挑むとは命知らずの奴だ。


 例によってカソードにエキシビジョン・マッチの許可を取る。

 まあオッケーはでるよね。


 マイラとトレンが舞台の上で木剣を構える。


「始め!」


 審判の合図で二人が動き始める。

 トレンの動きは見えないほど早い。

 しかし、ピタッとその動きが止まった。

 マイラには打ち込まれていない。

 それどころかマイラの剣がトレンの体に軽く触れられていた。

 マイラの剣の動きは俺にも見えていた。


 それぐらいゆっくりとした動きだったのだ。

 だのにトレンがピタっと止まった。

 まるで魔法だ。


「テクチカ・シニシ・ンラナ・シラめ」

「さて何でしょう」


 トレンが何を言ったかは分かる。

 たぶん『何をしたんだ』と言ったのだろう。


 トレンがマイラに良い様に打たれる。


「勝者マイラ」


 審判が試合を止めた。


 マイラが舞台を降りてくる。


「凄いな。まるで魔法だ。何をやったの?」

「循環する魔力の流れを変えてやった」


 ああ、マイラの能力は流体把握だものな。

 持っている剣も微弱な魔力を帯びる。

 触ったぐらいではわずかな影響しかない。

 ないが、マイラがやったのなら話は別だ。


 流れのツボというかポイントがあるのだろう。

 そこを乱されたのだ。

 それで動けなくなった。

 強化するはずの力が拘束する力になったんだな。


「トレンにとってマイラは天敵だな」

「あんな女には負けない」


「ええっ、トレンが最強だと思っていたのに」

「リッツ、幼児の時から修羅の世界で生きてきたマイラを倒すのは、簡単ではないぞ。俺だってやばいかも」

「魔王のタイト先輩も負けるんですか?」

「まあね。やった事ないから分からないが、厳しい戦いになるだろうな」


 納得がいかなかったのだろう。

 トレンが舞台から降りて来てマイラの所に来た。


「何したの教えなさい」

「はしゃいでる子供は良く転ぶ」

「私が子供だって言うの」

「自分の武器でやられるなんて、ナイフを持ったばかりで傷を負う子供と変わりない。間抜けね」

「くっ、キチシシイモ」


「だから、その言葉は分かんないって」

「ちくしょうという意味だよ」


 リッツが解説してくれた。


「負けを認めるのね。ちくしょうという奴は負けを認めた奴。スラムの常識」

「トレン、順位戦と今回に勝って、ランシェに何を願い出たんだ。それを教えれば、マイラが何をやったか教えてやろう」


「順位戦ではうちの国に、外交使節を派遣する事を願い出た。今日はうちの国から、留学生を何人か受け入れてもらえるよう、願い出るつもりよ」


 平和交流が目的なのか。


「マイラの技だがな。人間とその持ち物には魔力が宿る。木剣とて同じだ。そして他人の魔力は反発する。触られるとそこに衝突が起きる。それでトレンの魔力の流れが乱された」

「トクニカ」


 トレンが悔しそうに悪態をついた。


「要は岩だってここにノミを打ち込んだら、割れるというポイントがある。ある種の達人じゃないと出来ない。相手が悪かったな」

「礼を言う」


 そう言ってトレンは大股に去っていった。

 マイラがあっかんべーをしている。

 マイラ、その仕草はトレンには伝わらないぞ。

 分かってやっているのかも知れないけどな。


「マイラ、解説して悪かったな」

「ううん、たぶんあの女は自分で気づいてた。それに対策は難しい。動いている最中ってのは、足をちょんと掛けただけでこける。これは防ぎようがない。あの技は駆け回る事で強くしている。隙を消せないと思う」


 そういう意味では魔法もマイラに負けるかもな。

 魔力の流れにも弱点はあるだろう。

 勝てるとしたら、圧倒的な熱量で焼き尽くすとかかな。


 流石に漫画にあった激熱のお湯にもツボがあるとかいうみたいに、高温の炎にもツボがあると言って無傷とか言わないよな。

 真空を作り出したりしたら、そういう方法でも防げないんだけどね。

 俺は何を考えているんだ。

 マイラが敵に回ったら大人しく討たれてやろう。

 その時はたぶん譲れない理由があるに違いない。

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