第396話 入植と、ボードゲームと、嵐の前触れ

 リッチのエリアに獣人達による入植が始まった。

 何もない荒野だが、モンスターが定期的に侵入してきてスケルトンが狩るので、肉には困らない。

 野菜は、エリアから貰った種を蒔いている。


 葉物野菜で、20日ぐらい収穫だが、5日ぐらいの若芽もそれはそれで美味い。

 連作障害が起こったら作る場所を変えればよかろうという方針でやっている。


 穀物として豆の類も蒔いている。

 あとソバ。


 虫や鳥をスケルトンが退治してるので、生育は順調だ。

 益虫と害虫をスケルトンに覚えさせないと。


「リッチは話せる奴だったな」

「タイトの武力ありきだ。あれを見たら戦おうという気にはなれない。あれでも全力じゃないんだろ」


 俺はクリアと草の種を蒔きながら雑談してる。


「まあな。あれで駄目なら、滅ぼすのも視野にいれないといけないところだった」

「リッチはリバーシに嵌ったな」

「単純だがあれは奥が深いんだぞ」

「知っているエルフの村でさんざんやったからな」


 リッチは今、リバーシの相手をするスケルトンを作っている。

 学習機能を持たせるのだ。

 形勢判断さえできれば後は対戦していって手を覚えるのは簡単だ。


「リバーシスケルトン、大人気になりそうだ」

「スケルトン如きに勝てないのは悔しい」

「あれはな学習が進むとプロでも勝てない」

「リバーシにプロがいるのか?」


 やべっ、前世の話だった。

 スライダー王国でもリバーシの真剣師みたいな存在はいる。


「博打ちの類だがな」


 将棋と囲碁はまだ誰にも教えてない。

 リッチに教えたら喜んでくれそうだ。

 もっとも、俺は両方とも定石を知らない。

 知っているのは基本ルールだけ。

 入玉のルールさえあやふや。


 駒の種類ぐらいと動かし方ぐらいは分かるけどな。

 魔法で駒を作るのは難しい。

 細かい造形が得意じゃないのだ。


 囲碁の方は黒い石と白い石さえあれば出来る。


 将棋はどうした物か。

 そうだ前世で、駒の動きを線で表して掘った駒があったな。

 これなら、簡単だ。


 将棋の駒と、碁石を持ってリッチを訪ねる。


「お土産を持ってきた。新しいゲームだ」

「ふむ、新しいゲームとな。早く見せろ」


 リッチに将棋と囲碁を教える。


「どう、面白いだろ」

「この思考回路をスケルトンに組み込むのは容易ではないな。30年は掛かるかもしれない」


 書籍もなしに一から作るのだと俺もそれぐらいは掛かる。

 参考にする本があれば3日ぐらいで出来るが。


 今使っている、Pythonパイソンは人工知能向けの言語だが、俺はそれらの理論は知らない。

 浅い知識が僅かにあるだけだ。


 αβ法もほとんど知らない。

 名前を知っているだけだ。


 俺は思考プログラムの分野で最強とは言えないようだ。

 おそらくリッチが作ったスケルトンにも負ける。


 リッチの家から出て考える。

 俺ってプログラマーとして大したことはないな。

 改めて思う。


 いま俺が強者なのは、火縄銃を持ってない文明の人達に、火縄銃を持って優位に立っているだけだ。

 火薬の作り方も、火縄銃の作り方も知らないへっぼこ兵士。

 それが流されて文明が発達してない地域に辿り着いた。

 こんな感じだな。


『と思うんだが』

『よく分からないけど知っているってことは強み。知らない奴が馬鹿を見るのは世の理。いちいち知らない人に教えてあげたりすることもない。知っていると自慢したりしなきゃ良いだけ。そういう奴は早死にするからね』


 通信魔法でマイラとそんなやり取りをした。


『そっちはどう?』

『探索隊は魔境に入っている。けど邪魔者がいるのよね。アスロン侯爵が大軍を率いて邪魔してる』


 俺をここに飛ばしたアスロン侯爵が、軍をだしているのか。


『荒れそうだな』

『ええ、嵐になると思う』

『なんでまた、アスロンの野郎は、大軍なんか出す気になったんだ』

『タイトを抹殺するのが一つと、魔境を開拓するためよ。ここに独立国を作ろうとしているらしい』

『いや、無理だと思うよ。魔王が4体いるし。彼らは縄張りに入ったよそ者に容赦しない』

『できると思っているから、やっているんでしょ』

『そうだな。強力な古代魔道具をコレクションしているみたいだし、自信があるのかもな』


 アスロン侯爵の古代魔道具は、魔王に太刀打ちできるかな。

 できたとしたら。

 できるという前提で動いた方が良さそうだ。

 しかし、ややこしいことになった。

 獣人とエルフが征服される未来だけは防がないといけない。

 それがきっかけを作ってしまった俺の務めだ。

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