第395話 リッチと、話し合いと、娯楽
荒野を探索してたら、ボロボロの服を着てマントを纏ったスケルトンが空を飛んで現れた。
「やあ、人間に会うのは久しぶりだ」
このいかにもフレンドリーな態度で話し掛けてきた喋る骸骨がリッチだろう。
分身がいても不思議はないが、本人だということにしておく。
「私はエルフだ」
「耳の長さの違いだけじゃないか。青虫は黙ってろ」
偉そうな態度に変わったな。
表情がないのでそういう態度なのかははっきりとは分からないが。
「話合いに来た」
「ふむ。我が輩には話すことなどないが、ここまで来たということはスケルトンの攻撃をはねのけたということだろう。それに免じて話は聞いてやる」
「獣人をあなたの領域に住まわせてやってほしい」
「ふむ、そんなことをする意味はないな」
「どうせ。力を示せとか言うんだろ。【100万魔力火球】。ほら何か言ってみろ」
「驚いたな。何時の間に人間はそこまで発展したのだ。いやもはやこれは進化だ。吾輩の予想をはるかに超える」
「話を聞く気になったか」
「もちろんだとも」
「お前に名前はあるのか」
「既に忘れた」
「まあリッチでいいか。でリッチはどういう生き物なんだ? スケルトンが魔道具だということは分かる」
「吾輩は自我をもった唯一の魔道具なのだよ。機能をつけ足したりしているが、核は昔から変わってない」
「生きている屍とかだったらロマンがあるのにな。がっかりだ。俺も一度、魂を魔道具に移して、生き物みたいにした事がある」
「ほう」
「成功例は少ない」
「ふむ、特殊条件が必要なのだろう。私の核も人間の魂が入っている」
「やはりな。不老不死には憧れないが、そういう方法もあると覚えておこう」
「ここに来た目的を話せ」
「獣人を受け入れるのには色々と利点がある。草を生やして栽培できる。草から魔力を摂っているのだろう。それに獣人の余った魔力も提供できる」
「ふむ、利点だらけだな」
「人間の作った品だが、太陽光を魔力に変える魔法陣もある」
「魔法陣とは何だ?」
「魔法陣は魔道具と似たような動きをする。この魔法陣は銅貨数枚の材料で色々な動きをするんだ」
「夢の道具ではないか。やはり人間の進歩は素晴らしい」
「スケルトンの技術の方が凄いがな」
「あれは吾輩の魂のコピーを移してあるのだよ」
「自我はないが、決まりきった作業はするのだな」
「その通り」
「エルフに対して思う所があるのかな?」
「あいつらは吾輩を世界を死に至らしめる死神だと言って、戦争を吹っ掛けてきたのだ」
「ふーん」
「軽く追い払ってやったが」
「エルフは緑がないと情緒不安定になるみたいなんだ」
「そういう生き物だったのか」
「だから、獣人が草をここに生やして緑あふれる地にすれば、エルフも軟化するさ」
「情緒不安定だとぅ。いくらタイトでも黙ってられない」
「でもこの領域に入ってからイライラしているよな」
「ふん、エルフにしかエルフの情緒というのは分からないのだ」
「お土産に魔貨というのを作って持ってきた」
「ふむ魔石のお金か。中に魔力を入れて運用するのか。金を使う事はなくなったが、人間らしい発想だ。吾輩の家に案内しよう」
連れて行かれたのは全てが石で出来た小さな家。
壁も屋根も柱も扉も全て石。
中に入るとテーブルも椅子も全て石で出来ていた。
骨なら座り心地とか考えないよな。
俺は大人しく石の椅子に座った。
「そちらが提供できる物については分かった。見返りに吾輩に何をしてほしいのかな?」
「木で作ったスケルトンを輸出してほしい。スケルトンの機能は農作業用がいいな」
「耕して、雑草を取るぐらいなら簡単なことだ」
「危なくないのか」
クリアが疑問を呈す。
「ああ、スケルトンが反乱した場合を考えているんだね。もちろん暴走した時の自爆装置は付けるさ。これは俺が作るから問題ないはずだ」
「そうか。エルフはリッチとは取引しないぞ。この荒れ地が緑の地に変わるなら考えるが」
「いずれそうなるさ。リッチ、ここには娯楽がない。たまには息抜きしたいと思わないのか」
「そんな感情は忘れたよ。だが、昔を思い出して楽しむのもいいかもな」
「ホッケーゲームというのがあって、これが大人気なんだ」
「ほうそんなものが」
「簡単だけど石取りゲームというのもある」
「ふむふむ、交互に1つから3つの石を取り最後の一個を取った者が負けか」
それからリッチと石取りゲームを何度かやった。
リッチはすぐに必勝法を見抜いた。
ここからも頭は悪くないことが分かる。
移した魂の人間は、たぶん高名な魔法使いだったのだろう。
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