第370話 古代魔道具、魔法言語封じと、Python

 俺とマイラはアスロン侯爵の悪事の証拠を掴むべく、姿隠しをして屋敷に潜入した。

 メイドの後をつけ執務室に入る。

 アスロン侯爵の用心棒の一人が剣を抜いて俺に斬りかかってきた。

 それをマイラが短剣でいなす。


「刺客か!」


 アスロン侯爵は机の下に隠れた。

 他の用心棒もマイラに斬りかかる。

 見えてないだろうに良く場所が分かるな。


「こいつは鎌鼬のマイラ」


 素性もばれたようだ。


「もうひとりいるぞ」


「のこのこ出てくるとはな。もう一人は魔王タイトだ」


 用心棒の間に緊張が走る。


「こんな時のために古代魔道具を収拾しておいたのだ」


 勝ち誇ったアスロン侯爵の声。


「死ぬがいい。魔法言語封じ、そして、転移」


 俺の体は光に包まれ、気が付いたら森の中だった。


 装備はおろか服さえ身に着けてない。

 ちくしょう。

 サバイバルかよ。

 スペルブックがないのが地味に痛い。

 まあ、服を出す魔法ぐらい即興で作れる。

 材料は雑草の繊維だから、着心地は良くないと思うけどな。


extern void clothes_make(void);


void main(void)

{

 clothes_make(); /*服を作る*/

}


 実行したところ魔法に失敗。

 ええと転移する前にアスロン侯爵はなんと言った。

 たしか『魔法言語封じ、そして、転移』だった気がする。

 魔法言語封じ、これがどんなものか分からないとどうしようもない。


『こちら、マイラ、タイト返事をして』


 マイラから魔法通信があった。

 無事を報せたいが、魔法が使えないとどうしようもない。

 これからの生存にも大きく係わってくる。


 C言語魔法で返信したが魔法が失敗したようだ。

 くそっ、諦めるものか。


「【点火】。なんだ使えるじゃないか」


 マッチを擦った時ぐらいの火が灯った。

 となると封じられたのはC言語だな。

 俺の大きな武器がなくなったようだ。


 まずはマイラに無事を報せないと。


「【モンスチの神秘魔法名の元にメッセージを送れ。無事だがすぐに帰れそうにない、タイト】」


 モンスチはマイラの神秘魔法名だ。

 しばらく経って『行くから待ってて』というメッセージが届いた。

 とりあえずサバイバルだ。

 水も塩も魔法で出せる。

 だが俺の魔力量ではどうにもならない。

 魔力量増量の魔道具がないのが痛い。

 何か一つぐらいC言語魔法を使った魔道具があればよかったのに。


 さて、ふふふっ。

 良いことを思いついた。

 C言語が封じられたなら、別のプログラム言語を使えばいいんじゃないか。


 何にしよう。

 俺は執念深く復讐を狙う蛇だ。

 Python(パイソン)にしよう。


 さっきの服の魔法をPythonで書くと。


import clothes_make # 服を作るモジュールを入れる。C言語だとinclude。

clothes_make() # 服を作る


 こんな感じだ。


 さっそく実行してみる。

 ごわごわの服が現れた。

 やったぞ。

 慣れてないプログラム言語だけどなんとかなった。


 服の箇所の言葉をズボンとか靴に変えて装備を作って人心地がついた。

 さて、モンスターに対する攻撃だな。

 誘導弾が欲しいところだが慣れてないプログラム言語では難しい。


 とりあえず、塩と水を作ろう。

 これも言葉の入れ替えでなんとかなる。


 器も作ろう。

 ここまで来たら後は。


import poison_check

val = poison_check() # 毒感知

print val # 結果表示


 毒感知があれば果物が食べられる。

 寝るのは木の上にしよう。

 ロープを作ってと。


 ロープで網みたいなのを作った。

 ハンモックに使うためだ。


 さて果物を探すぞ。

 こういう時は虫や鳥の行く方向に行くと良いと読んだ。


 運良く果物は見つかった。

 渋い味がしたが毒でないのは魔法で判っている。

 食えるだけ食った。


 魔法通信の魔法を作るか。


with open('モンスチ', 'w') as f: # モンスチはマイラの神秘魔法名。

   print('送るメッセージを書く', file=f) # これでメッセージを送れるはず。


 たしかこんなので良かったような。

 試しに送ったら、『探索隊を編制中』と返ってきた。

 向こうは着実に動いているな。

 マイラなら安心して任せられる。


 それにしても攻撃魔法がないのがこんなに心細いとは。

 今日の作業は終りだな。

 すぐに寝て、明日、攻撃魔法を作ろう。


 そう言えばマイラは俺のいる場所が分かっているのだろうか。

 俺には自分のいる場所の見当が皆目つかないのだが。

 まあいいか。

 こまめに魔法通信すれば、手掛かりぐらい掴めるだろう。

 まだ、緊急事態じゃない。

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